「授乳のたびにむせてしまう」「なかなかうまく吸えなくて、授乳が終わる頃にはぐったりしている」「飲むのにいつも時間がかかって、体重がなかなか増えない」——こうした言葉を、赤ちゃんを育てる親御さんや新生児室の看護師から聞いたことはないでしょうか。
授乳は赤ちゃんにとって生命を維持するための最も基本的な行為です。
しかし、その授乳という行為がうまくできない赤ちゃんが一定数おり、特に早産児、低出生体重児、神経学的な問題を持つ赤ちゃんに多く見られます。
吸う、まとめる、飲み込む——この一連の動作が協調してスムーズに行われなければ、赤ちゃんは十分な栄養を摂取することができず、成長発達に影響を与えます。
この状態は看護診断において乳児吸啜嚥下反応不良と呼ばれ、新生児期から乳児期にかけての授乳困難として広く見られる診断です。
今回は、この看護診断の概要から看護計画の立案まで、新生児・乳児看護に携わる方に向けて、臨床で活用できる内容を詳しくまとめました。
乳児吸啜嚥下反応不良とはどういう状態か
乳児の授乳は、一見単純な行為に見えますが、実際には非常に複雑な神経・筋肉の協調運動です。
正常な授乳は吸啜(きゅうてつ)・嚥下(えんげ)・呼吸の三つの動作が協調して行われます。
この流れを「吸啜嚥下呼吸の協調」と呼びます。
吸啜とは、乳首や哺乳瓶の乳首を口の中に取り込み、舌と顎を使って陰圧をつくりながら乳汁を引き出す動作のことです。
嚥下とは、口の中に集めた乳汁を咽頭(いんとう)から食道へと送り込む動作のことです。
呼吸との協調とは、飲み込んでいる間に一瞬呼吸を止め、その前後に呼吸を行うという、精密なタイミングの調整のことです。
NANDA-Iでは、乳児吸啜嚥下反応不良を「乳児が口腔機能を使って吸啜し、乳汁を嚥下する能力が不十分な状態」として定義しています。
たとえば、次のような状態がこの診断に当てはまります。
授乳のたびにむせる、チアノーゼ(口唇が青くなる)が生じる。
吸う力が弱く、乳汁を十分に引き出せていない。
授乳中に疲労して眠ってしまい、1回の哺乳量が少ない。
哺乳に非常に時間がかかり、赤ちゃんも母親も疲弊してしまう。
哺乳量不足から体重増加が見られない。
なぜこの看護診断が重要なのか
乳児の吸啜嚥下反応不良は、栄養摂取の問題にとどまらず、生命の安全に直接関わる可能性があります。
嚥下と呼吸の協調が乱れると、乳汁が気道に入る誤嚥(ごえん)が生じることがあります。
誤嚥は肺炎の原因となり、重症化すると生命を脅かします。
また、哺乳量の不足は低血糖、脱水、体重増加不良、さらには発育・発達の遅れにつながることがあります。
一方で、適切な評価と支援が行われれば、多くの吸啜嚥下反応不良は改善または代償できます。
哺乳瓶の乳首の種類の変更、授乳姿勢の調整、経管栄養の導入、言語聴覚士や摂食嚥下の専門家との連携——こうした介入によって、赤ちゃんが安全に十分な栄養を摂取できるようになることが多いです。
看護師は授乳場面に最も近くいる職種として、吸啜嚥下反応不良の早期発見と適切な対応に中心的な役割を担っています。
関連因子とリスク因子を整理する
乳児吸啜嚥下反応不良に関わる因子はいくつかに分類できます。
発達・成熟度に関わる因子として、早産(特に在胎34週未満では吸啜嚥下呼吸の協調が未熟)、低出生体重、在胎週数に対して小さい赤ちゃん(SGA)が挙げられます。
在胎34〜36週の後期早産児でも、吸啜嚥下の協調が不完全なことが多く、注意が必要です。
神経学的な因子として、脳室周囲白質軟化症(のうしつしゅういはくしつなんかしょう)、脳出血後の神経学的後遺症、低酸素性虚血性脳症(ていさんそせいきょけつせいのうしょう)、染色体異常(ダウン症候群など)、神経筋疾患が挙げられます。
神経学的な問題は、吸啜嚥下に必要な筋肉の協調運動に直接影響します。
口腔・解剖学的な因子として、口唇・口蓋裂(こうしんこうがいれつ)、舌小帯短縮症(ぜつしょうたいたんしゅくしょう)、小顎症(しょうがくしょう)、口腔内の筋緊張の異常が挙げられます。
呼吸器・心臓疾患に関わる因子として、先天性心疾患、慢性肺疾患、気管支肺異形成症(きかんしはいいけいせいしょう)が挙げられます。
これらの疾患では呼吸への負荷が高く、授乳中に呼吸と嚥下の協調を保つことが難しくなります。
その他の因子として、胃食道逆流症(いしょくどうぎゃくりゅうしょう)による授乳中の不快感、鼻閉(びへい)による呼吸困難が授乳を妨げることがあります。
看護目標を設定する
長期目標
赤ちゃんが安全に吸啜嚥下を行いながら必要な哺乳量を確保し、適切な体重増加と成長発達を続けることができる。
短期目標
授乳中の誤嚥のサイン(むせ、チアノーゼ、呼吸の乱れ)を早期に発見し、安全な授乳が行えているかを確認することができる。
赤ちゃんの状態に合った授乳方法(姿勢、乳首の種類、授乳ペース)を選択し、1回の哺乳量が目標量に近づくことができる。
家族が赤ちゃんの吸啜嚥下反応不良の特徴と安全な授乳方法を理解し、授乳に自信を持って関われるようになる。
観察計画(オーピー)
乳児吸啜嚥下反応不良の状態を把握するためには、授乳場面の直接観察と全身状態の継続的な確認が必要です。
授乳中の吸啜嚥下の様子の観察として、吸う力の強さと持続性(力強く連続して吸えているか、途中で疲れて止まってしまうか)、嚥下の様子(喉が動いているか、ゴクゴクという音が聞こえるか)、呼吸のリズム(授乳中に呼吸が乱れていないか)を確認します。
誤嚥のサインの観察として、授乳中・授乳後のむせ、チアノーゼ(口唇・爪床が青くなる)、酸素飽和度の低下(経皮的酸素飽和度モニターを使用している場合)、喘鳴(ぜいめい、ゼーゼーという呼吸音)、授乳後の咳込みを確認します。
これらのサインは誤嚥が起きているまたは起きそうであることを示しており、授乳の方法や量の見直しが必要です。
哺乳量と体重の観察として、1回の哺乳量(母乳の場合は授乳前後の体重差、哺乳瓶の場合は飲んだ量)、1日の総哺乳量、体重の変化(1日あたりの体重増加量)を記録・確認します。
正期産新生児の1日必要哺乳量の目安は生後1週間以降で1日150〜200mL/kg程度ですが、在胎週数・体重・全身状態によって異なります。
授乳にかかる時間と赤ちゃんの疲労度の観察として、1回の授乳にかかる時間(20〜30分以上かかる場合は疲労による哺乳量不足の可能性)、授乳中・授乳後の赤ちゃんの活気・覚醒状態(授乳途中で眠ってしまう)を確認します。
口腔内と顔面の観察として、口唇・口蓋の状態(口唇裂・口蓋裂の有無)、舌の動き(前後・上下に動いているか)、舌小帯の状態、顎の大きさと形態、口腔内の筋緊張(低緊張または高緊張)を確認します。
全身状態の観察として、体重・身長・頭囲の変化(成長曲線との比較)、皮膚のツルゴール(脱水の程度)、排尿・排便の回数と量、活気・哺乳意欲を確認します。
家族の授乳技術と不安の観察として、家族の授乳姿勢と赤ちゃんのポジショニング、授乳中の親子の様子(緊張していないか、授乳を楽しめているか)、授乳に関する不安・困難の訴えを確認します。
ケア計画(ティーピー)
ケア計画では、赤ちゃんが安全に必要な哺乳量を確保できるよう、授乳方法の調整と支援を行います。
授乳姿勢の最適化を行います。
吸啜嚥下反応不良のある赤ちゃんでは、授乳姿勢が非常に重要です。
体幹をやや起こした半座位(セミリクライニング)の姿勢で授乳することで、重力の作用により乳汁が適度なペースで流れ、むせやすい赤ちゃんにとって飲みやすくなります。
赤ちゃんの頭・首・体幹が一直線になるよう保持し、頸部が過伸展または過屈曲にならないよう注意します。
授乳クッションや丸めたタオルを使って、姿勢を安定させます。
哺乳瓶の乳首の選択と授乳ペースの調整を行います。
哺乳瓶を使う場合、乳首の穴の大きさと素材が重要です。
穴が大きすぎると乳汁の流速が速くなり、むせの原因になります。
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流速の遅い(スローフロー)乳首を選択し、赤ちゃんが自分のペースで吸えるようにします。
授乳中は赤ちゃんが嚥下するタイミングを見ながら、哺乳瓶を少し傾けて流速を調整します。
ペーサーフィーディング(赤ちゃんのペースに合わせた授乳)を実践し、一定量飲んだら少し休憩を入れる方法も有効です。
授乳前の準備と覚醒の促しを行います。
吸啜力が弱い赤ちゃんや覚醒が不十分な赤ちゃんでは、授乳前に適度に覚醒を促すことが効果的です。
オムツ交換、足の裏のマッサージ、背中をさするなど、適度な刺激で赤ちゃんの覚醒レベルを上げてから授乳を始めます。
反対に過度に泣いている状態での授乳は避け、少し落ち着かせてから授乳します。
経管栄養の適切な管理を行います。
吸啜嚥下反応不良が重度で、経口摂取だけでは必要な哺乳量を確保できない場合には、経鼻胃管(きょうびいかん)による経管栄養を行います。
経管栄養は哺乳量不足を補うための安全な手段であり、直接授乳の練習と並行して行います。
経口摂取量が増えるにつれて経管栄養量を段階的に減らしていく移行計画を、担当医・栄養士と連携して立てます。
口腔感覚・筋肉の準備を整えるケアを行います。
口腔周囲のマッサージ(頬・唇・顎周辺のやさしいマッサージ)や、ノンニュートリティブサッキング(栄養を目的としない吸啜練習、指やおしゃぶりを使った吸啜の練習)が、吸啜力の向上に役立つことがあります。
これらの実施については言語聴覚士や担当医と相談しながら進めます。
言語聴覚士・摂食嚥下専門家との連携を積極的に行います。
吸啜嚥下反応不良が続く場合や原因の精査が必要な場合には、言語聴覚士への依頼を担当医と相談します。
嚥下造影検査や嚥下内視鏡検査が必要な場合もあり、適切な専門的評価につなぐことが重要です。
家族への授乳支援を行います。
家族が授乳の困難に焦りや不安を感じていることが多いため、「今赤ちゃんは精一杯頑張っています。一緒にうまくいく方法を見つけましょう」という言葉かけで、家族の不安を受け止めます。
授乳の場面に立ち会い、具体的な方法を一緒に確認・練習します。
教育計画(イーピー)
教育計画では、家族が赤ちゃんの吸啜嚥下反応不良の特徴を理解し、安全な授乳方法と異常のサインへの対応を自信を持って行えるよう支援します。
家族に対して、赤ちゃんの吸啜嚥下反応不良がなぜ起きているのかを分かりやすく説明します。
早産の場合は「赤ちゃんはまだ飲む機能が発達の途中にあります。週数が進むにつれて上手になっていきます」という説明が、家族の見通しを持つ助けになります。
神経学的な問題がある場合は「脳や神経の状態が、飲む機能に影響しています。専門的なケアでサポートしていきます」という説明とともに、長期的な支援の見通しを伝えます。
安全な授乳のサインと危険なサインを具体的に伝えます。
安全に飲めているサインとして、規則的な吸啜嚥下のリズム、授乳中に顔色が良い、授乳後に満足そうにしているが挙げられます。
危険なサインとして、むせ込み、顔色が青くなる(チアノーゼ)、授乳中に呼吸が乱れる、授乳後にゼーゼーした呼吸が続くが挙げられ、「これらのサインが見られたらすぐに授乳を中断して赤ちゃんを起こし、看護師に知らせてください」という具体的な行動を伝えます。
正しい授乳姿勢と哺乳瓶の使い方を実際に練習してもらいます。
「赤ちゃんの体をやや起こして、体幹が一直線になるように抱きましょう」「哺乳瓶はあまり傾けすぎず、赤ちゃんのペースに合わせてください」という具体的な指導を行い、家族が自信を持って実践できるまで繰り返し練習します。
哺乳量の確認方法と授乳記録のつけ方を伝えます。
「1回の哺乳量、授乳時間、授乳後の様子を記録しておくと、赤ちゃんの状態の変化を把握しやすくなります」という説明とともに、授乳記録票の使い方を説明します。
退院後に気をつけるサインと受診のタイミングを伝えます。
体重増加が見られない、排尿・排便回数が少ない、授乳のたびにむせる・チアノーゼが出る、赤ちゃんの活気が低下しているといった場合はすぐに医療機関を受診するよう伝えます。
家族が孤立しないよう、相談できる窓口の情報を提供します。
退院後の乳幼児健診、かかりつけ小児科医、地域の助産師外来・育児相談など、授乳の困難を相談できる場所を具体的に紹介します。
「一人で悩まないでください。相談できる場所があります」というメッセージが、家族の孤立感を和らげます。
臨床でよく見られる場面と対応のポイント
後期早産児(在胎34〜36週)の哺乳困難では、外見上は正期産児に近い大きさであるにもかかわらず、吸啜嚥下の協調が未熟なため哺乳量が不十分になりやすいです。
「見た目は大きいのに飲めない」と家族が戸惑うことが多いため、「この週数ではまだ飲む力が発達途中です」という説明を丁寧に行います。
退院後も体重確認と哺乳量のフォローアップを継続します。
口唇・口蓋裂の赤ちゃんでは、口腔内の解剖学的な問題から通常の吸啜が難しいです。
口蓋裂専用の哺乳瓶(ハビーマン型、ピジョン口唇口蓋裂専用哺乳瓶など)の使用を検討します。
口腔外科・形成外科・言語聴覚士と連携した長期的な支援計画を早期から立てます。
先天性心疾患のある赤ちゃんでは、授乳中の体力消耗が大きいため、哺乳量確保が難しいことがあります。
1回の授乳時間を20分以内に制限し、授乳中の酸素飽和度と顔色のモニタリングを行います。
1回の哺乳量が少ない分を哺乳回数を増やして補う方法や、経管栄養との組み合わせを担当医と検討します。
ダウン症候群の赤ちゃんでは、低筋緊張による吸啜力の低下と舌の動きの特徴から、哺乳困難が生じやすいです。
流速の遅い乳首の使用、授乳前の口腔周囲マッサージ、下顎のサポート(授乳中に下顎を軽く支える)が有効なことがあります。
長期的な摂食支援として言語聴覚士との連携が重要です。
胃食道逆流症のある赤ちゃんでは、授乳後の逆流による不快感から哺乳意欲が低下し、授乳量が減ることがあります。
少量頻回の授乳、授乳後の縦抱きによるげっぷの促し、授乳後しばらくは上体を起こした姿勢を保つことが有効です。
症状が強い場合は担当医に薬物療法の検討を相談します。
まとめ
乳児吸啜嚥下反応不良は、赤ちゃんの栄養摂取と安全を守るために早期の発見と適切な対応が必要な、新生児・乳児看護における重要な診断です。
「うまく飲めない」という問題の背景には、在胎週数の未熟さ、解剖学的な問題、神経学的な問題、疾患など様々な要因があります。
その原因を正確にアセスメントし、それぞれの赤ちゃんの状態に合った授乳方法を見つけることが、看護師の中心的な役割です。
また、授乳の困難は家族にとっても大きな不安と疲弊をもたらします。
赤ちゃんへの直接的なケアとともに、家族が安心して授乳に取り組めるよう支えることも、看護師の大切な役割のひとつです。
観察、ケア、教育の三つの柱をバランスよく組み合わせながら、赤ちゃんが安全に十分な栄養を摂取しながら成長できるよう、多職種と連携して継続的に関わり続けることが大切です。
看護計画は赤ちゃんの発達と状態の変化に合わせて柔軟に見直しながら、その子らしい成長を支える支援を続けていきましょう。








