「お酒をよく飲むから、肝臓が心配と言われた」
「抗がん剤を始めてから、肝臓の数値が上がってきている」
「黄疸が出てきたと思ったら、急に意識が混濁してきた」
こういった場面は、消化器内科・肝臓内科・腫瘍科・外科・ICUなど、幅広い病棟で見られます。
肝臓は、代謝・解毒・胆汁産生・凝固因子合成・免疫機能など、生命維持に欠かせない多くの機能を担っている臓器です。
肝機能障害リスク状態は、まだ肝機能が本格的に障害されているわけではないものの、このままでは肝機能が損なわれる危険性がある状態を指す看護診断です。
リスク状態のうちに適切に関わることで、肝機能の悪化を予防し、患者さんの生命予後と生活の質を守ることができます。
この記事では、肝機能障害リスク状態の看護計画について、看護目標から観察項目・ケア・教育まで幅広くまとめていきます。
肝機能障害リスク状態とは
肝臓は、体内最大の臓器であり、多岐にわたる機能を担っています。
代謝機能(糖質・脂質・タンパク質の代謝)・解毒機能(薬物・アルコール・アンモニアなどの有害物質の処理)・胆汁産生(脂肪の消化を助ける)・凝固因子の合成(出血を止めるタンパク質の産生)・免疫機能(クッパー細胞による異物処理)などが肝臓の主要な機能です。
NANDA-I看護診断における肝機能障害リスク状態は、これらの肝機能が損なわれる危険性がある状態として定義されており、早期の介入によって肝機能障害の発症・進行を防ぐことを目的としています。
肝機能障害の原因は多岐にわたり、ウイルス性肝炎・アルコール性肝障害・非アルコール性脂肪性肝疾患・薬剤性肝障害・自己免疫性肝炎・胆道疾患などが挙げられます。
肝機能が低下すると、黄疸・腹水・浮腫・出血傾向・肝性脳症・低血糖などの症状が生じ、重篤な場合には肝不全・死亡につながることがあります。
肝臓は「沈黙の臓器」と呼ばれ、かなりの機能が低下するまで自覚症状が出にくいという特徴があります。そのため、リスク状態のうちから検査値と症状の変化を注意深く観察することが大切です。
この看護診断が適用されやすい状況
肝機能障害リスク状態が適用されやすいのは、次のような状況です。
慢性ウイルス性肝炎(B型・C型)を持つ患者さんで、ウイルスが活動化して肝機能が悪化する危険性がある場面に多く見られます。
化学療法・免疫療法を受けているがん患者さんで、薬剤性肝障害のリスクがある場合にも当てはまります。
長期にわたって多種類の薬剤を服用している患者さんで、薬剤性肝障害のリスクがある場合にも適用されます。
アルコール依存症・過剰飲酒のある患者さんで、アルコール性肝障害が進行する危険性がある場合にも見られます。
肥満・糖尿病・脂質異常症・メタボリックシンドロームのある患者さんで、非アルコール性脂肪性肝疾患から肝硬変へ進行するリスクがある場合にも適用されます。
肝硬変・慢性肝疾患の患者さんで、残存する肝機能がさらに低下する危険性がある場合にも当てはまります。
大手術・重症外傷・重篤な感染症(敗血症)などで肝臓への血流が低下するリスクがある場合にも見られます。
肝機能障害リスク状態に関連する要因
この看護診断に関連する要因として、以下のようなものが挙げられます。
ウイルス感染(B型肝炎ウイルス・C型肝炎ウイルス・EBウイルスなど)が肝細胞を傷つけます。
アルコールの過剰摂取が、肝細胞への直接的な毒性と脂肪肝・肝炎・肝硬変への進行に関わります。
薬剤(化学療法薬・抗結核薬・解熱鎮痛薬・漢方薬・サプリメントを含む)の肝毒性が関連します。
肥満・糖尿病・脂質異常症が、非アルコール性脂肪性肝疾患のリスクを高めます。
自己免疫異常が肝細胞への攻撃につながることがあります。
肝臓への血流低下(低血圧・心不全・ショック)が、虚血性肝障害をもたらすことがあります。
栄養状態の低下が、肝機能の維持に必要な栄養素を不足させます。
看護目標
長期目標
患者さんが肝機能の悪化をきたすことなく、肝臓を守るための生活習慣と治療管理を継続しながら、安定した状態で生活できるようになる。
短期目標
患者さんの肝機能に関わる検査値と身体症状が定期的に確認され、異常の早期発見につながる体制が整えられる。
患者さんが肝機能障害の早期症状(黄疸・倦怠感・腹部膨満・出血傾向・意識の変化など)を自覚したとき、すぐに看護師や医師に伝えられるようになる。
患者さんが肝臓への負担を減らすための行動(節酒または禁酒・薬剤の適切な使用・栄養管理)をひとつ以上実践できるようになる。
観察項目(観察計画)
観察項目では、肝機能の状態と肝機能障害の早期サインを幅広く把握することが出発点になります。
血液検査の結果を定期的に確認します。肝機能を表す検査値として、AST(アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ)・ALT(アラニンアミノトランスフェラーゼ)・γ-GTP・ALP・総ビリルビン・直接ビリルビン・アルブミン・PT(プロトロンビン時間)・アンモニア値を把握します。これらの変化が肝機能の悪化を早期に示す重要な情報です。
黄疸の有無と程度を観察します。眼球結膜(白目)・皮膚の黄染を確認します。黄疸の程度は血清総ビリルビン値と相関し、2〜3mg/dL以上で肉眼的に確認できるようになります。


圧倒的に早い
プロが作った参考例があれば、それを見て学べます
✓ 一から考える時間がない → 見本で時短
✓ 完成形の見本で理解したい → プロの実例
✓ 自分の事例に合わせた例が欲しい → カスタマイズ可
参考資料提供|料金19,800円〜|5年の実績|提出可能なクオリティ
腹部の状態を観察します。腹水の有無(腹囲の変化・腹部膨満・腹部の波動)・肝臓の大きさ・圧痛の有無を確認します。
浮腫の有無と程度を確認します。低アルブミン血症による浮腫(下肢・全身)の状態を観察します。
出血傾向を確認します。皮下出血・点状出血・歯肉出血・鼻出血・消化管出血のサイン(黒色便・吐血)の有無を観察します。肝機能低下による凝固因子合成低下が出血傾向をもたらすことがあります。
肝性脳症のサインを観察します。意識の変化・見当識障害・羽ばたき振戦(手を伸ばしたときにみられる粗い振戦)・異常な眠気・言動の変化・興奮は、血中アンモニア値の上昇による肝性脳症のサインとして注意が必要です。
バイタルサインを確認します。発熱・血圧低下・頻脈は、肝炎の増悪・感染・出血のサインとして大切な情報です。
皮膚の状態を観察します。掻痒感(胆汁うっ滞による皮膚への胆汁酸沈着)・蜘蛛状血管腫・手掌紅斑・女性化乳房は慢性肝疾患・肝硬変のサインとして確認します。
食事摂取の状況と栄養状態を確認します。食欲の変化・体重の変化・筋肉量の低下を把握します。
アルコール摂取量・薬剤使用状況(処方薬・市販薬・サプリメント・漢方薬)を確認します。
ケア項目(ケア計画)
ケアの基本は、肝臓への負担を最小限にしながら、肝機能の悪化を早期に発見し、安全な状態を保つことです。
安静の管理を行います。肝機能障害が進行している時期は、安静を保つことで肝臓への血流を確保し、肝細胞の回復を支えます。患者さんの状態に合わせた活動量の調整を行います。
薬剤管理を丁寧に行います。処方されている薬剤の種類・用量・肝毒性の有無を把握し、肝機能の変化に応じた用量調整の必要性を医師に報告します。患者さんが自己判断で市販薬・サプリメント・漢方薬を使用していないかを確認し、使用している場合は医師への相談が必要であることを伝えます。
栄養管理を支援します。肝機能障害のある患者さんの栄養管理は、疾患の状態によって大きく異なります。急性肝炎では高カロリー・高タンパク質食が基本ですが、肝性脳症がある場合はタンパク質制限が必要になることがあります。管理栄養士と連携し、患者さんの状態に合った食事管理を行います。
腹水管理を行います。腹水がある患者さんには、塩分制限・利尿薬の効果確認・腹囲と体重の毎日測定を行います。腹水による腹部膨満・呼吸困難・食欲低下への対応を行います。
肝性脳症への対応を行います。血中アンモニア値の上昇が疑われる場合は、医師に報告し、ラクツロース(アンモニア産生を減らす薬剤)の投与・タンパク質摂取の調整・便秘の解消について対応します。意識レベルの変化を継続的に観察し、安全な環境を整えます。
出血傾向のある患者さんの安全管理を行います。採血・注射後の圧迫止血を十分に行い、転倒・外傷を防ぐ環境整備を行います。消化管出血のサイン(黒色便・吐血)の早期発見に努めます。
掻痒感のある患者さんへの対応を行います。皮膚の保湿・爪を短く切ること・刺激の少ない衣服の着用・医師の指示に基づく内服薬や外用薬の使用を行います。
アルコール依存が背景にある場合は、禁酒支援と精神科・依存症専門医への連携を行います。禁酒を責めるのではなく、「一緒に肝臓を守りましょう」というメッセージを届けながら支えます。
患者さんの精神的なサポートを行います。肝疾患の診断・肝硬変への進行・肝がんへの不安は、患者さんにとって大きな精神的負担です。「今の状態をしっかり見ていますよ」という声かけが患者さんの安心感につながります。
教育項目(教育計画)
患者さんと家族が肝機能障害のリスクを理解し、肝臓を守るための生活習慣を実践できるよう、教育的な関わりを行います。
肝機能障害リスク状態とはどのような状態かを、わかりやすい言葉で伝えます。「肝臓の働きが低下する危険性がある状態」であること・肝臓が沈黙の臓器であり自覚症状が出にくいことを伝え、定期的な検査と観察の大切さを伝えます。
肝機能障害の早期症状について具体的に伝えます。白目や皮膚の黄色み・強い倦怠感・食欲の著しい低下・お腹の張り・皮膚の掻痒感・出血が止まりにくい・意識がぼんやりするといった変化が見られた場合は、すぐに医療者に伝えることの大切さを繰り返し伝えます。
アルコールと肝臓の関係について伝えます。アルコールは肝細胞への直接的な毒性があり、過剰な飲酒が肝炎・脂肪肝・肝硬変・肝がんへの進行に関わることをわかりやすく伝えます。肝機能障害がある場合は禁酒が必要であることを、責める言葉を使わずに伝えます。
薬剤の管理について伝えます。処方薬は必ず医師の指示通りに服用すること・市販薬・サプリメント・漢方薬を自己判断で使用しないこと・使用する場合は必ず医師に相談することの大切さを伝えます。
食事の管理について伝えます。肝機能の状態に合わせた食事の大切さを伝えます。過食・高脂肪食を避けること・塩分制限(腹水・浮腫がある場合)・タンパク質の適切な摂取(肝性脳症がない場合は良質なタンパク質の摂取が大切)について、管理栄養士と連携しながら具体的に伝えます。
体重・腹囲の自己測定の方法と記録の大切さを伝えます。腹水の増減は体重・腹囲の変化として現れるため、毎日同じ条件で測定し、急な変化があった場合は医療者に伝えることの大切さを伝えます。
ウイルス性肝炎のある患者さんには、感染予防と家族への検査の勧め・抗ウイルス療法の継続の大切さを伝えます。
定期的な検査と受診の大切さを伝えます。肝疾患は定期的な血液検査・腹部超音波検査による経過観察が、早期の異常発見と治療につながることを伝えます。
看護師として意識したいこと
肝機能障害リスク状態の看護計画を実践するうえで、肝臓の多岐にわたる機能を理解しながら、全身状態と検査値の変化を総合的に捉える観察力がとても大切です。
肝性脳症は急速に進行することがあります。患者さんの言動・意識レベルの微細な変化を見逃さない観察の習慣が、早期発見と迅速な対応につながります。「なんとなく元気がない」「いつもと違う」という気づきが、患者さんの生命を守る力になることがあります。
アルコール依存を背景に持つ患者さんへの関わりでは、飲酒を責めるのではなく、依存症という疾患として捉え、専門的な支援につなぐ姿勢が大切です。「やめられないのは意志が弱いのではなく、病気だから」というメッセージを、言葉と態度で伝えることが信頼関係の土台になります。
薬剤性肝障害は、処方薬だけでなく市販薬・漢方薬・サプリメントが原因になることがあります。患者さんが「薬ではない」と思っているものも含めて、服用しているすべてのものを確認する習慣が、薬剤性肝障害の早期発見につながります。
多職種との連携が欠かせません。医師・薬剤師・管理栄養士・精神科医・依存症専門家・医療ソーシャルワーカーと情報を共有しながら、肝機能管理・薬剤調整・栄養管理・精神的支援・社会的支援を一体的に進めることが、患者さんの肝機能を守る力になります。
退院後も肝機能のフォローアップが続く患者さんには、外来受診の継続・かかりつけ医との連携・地域の支援機関についての情報を提供し、院内から地域への途切れのない支援体制をつくることが看護師の大切な役割です。
まとめ
肝機能障害リスク状態の看護計画は、肝臓の機能が低下する前に予防的に関わり、患者さんが肝臓を守るための行動を継続しながら安全に生活できるよう支えるための計画です。
観察・ケア・教育の三つの視点を持ちながら、検査値と身体症状の変化を見逃さず、患者さんと家族が肝臓を守るための知識と習慣を身につけられるよう支えることが、看護師にできるとても大切な支援です。
肝臓は沈黙の臓器ですが、看護師の観察の目が、その沈黙の中にある変化を早期に発見する力になります。
この看護計画を参考に、患者さんの肝機能を守る予防的なケアと丁寧な観察を日常の看護に活かしてください。








