脳卒中の患者さんと関わっていると、「左側の食事に手をつけない」「左側から話しかけても気づかない」「車椅子の左側をぶつけてしまう」といった場面に出会うことがあります。
これは半側無視(半側空間無視)と呼ばれる症状です。
半側無視は脳卒中後によく見られる高次脳機能障害のひとつであり、患者さんの日常生活に大きな影響を与えます。 特に転倒・転落などの事故につながりやすく、看護師の丁寧な観察とケアが求められます。
この記事では、半側無視の看護計画について、原因から観察のポイント、具体的なケア方法まで丁寧に解説していきます。 看護学生の方も、脳卒中看護に関わる看護師の方も、ぜひ参考にしてみてください。
半側無視とはどういう状態か
半側無視とは、脳の損傷によって、身体の片側(多くの場合は左側)の空間や刺激に注意が向かなくなる状態のことです。
麻痺とは違います。 麻痺は手足が動かない状態ですが、半側無視は「そちら側に注意が向かない」「そちら側があることに気づかない」という認識の問題です。
半側無視がある患者さんは、片側の空間が存在しないかのように振る舞います。 左側にある食事を食べない・左側から話しかけても反応しない・左側の壁にぶつかる・左側のボタンをかけ忘れるといった様子が見られます。
また、半側無視には自己認識の欠如が伴うことがあります。 本人は「左側に注意が向いていない」という自覚がなく、「ちゃんと見ている」「全部食べた」と思い込んでいることが多いです。 このため、指摘されても理解できず、事故のリスクが高くなります。
半側無視が起きる原因
半側無視は脳の特定の部位が損傷されることで起きます。
右脳の頭頂葉(特に下頭頂小葉)が損傷されると、左側への注意が向かなくなります。 右脳は空間認識に関わる役割が大きいため、右脳梗塞や右脳出血の患者さんに多く見られます。
左脳が損傷された場合でも半側無視は起きますが、右脳損傷に比べて頻度は低く、症状も軽いことが多いです。
脳卒中(脳梗塞・脳出血・くも膜下出血)が最もよく見られる原因です。 その他、脳腫瘍・頭部外傷・脳炎などでも起きることがあります。
半側無視の重症度は、損傷の範囲や深さによって異なります。 軽度の場合は日常生活への影響が少ないこともありますが、重度の場合は食事・移動・整容など多くの場面で困難が生じます。
半側無視が引き起こすリスク
半側無視のある患者さんには、さまざまな安全上のリスクがあります。
転倒・転落のリスクが高くなります。 車椅子で移動中に左側の壁や物にぶつかる・ベッドから降りるときに左側の柵を確認せず転落するといった事故が起きやすいです。
食事摂取量の不足が起きます。 左側のトレイに手をつけず、右側だけ食べて「全部食べた」と思い込むことがあります。 栄養不足や脱水につながることもあります。
皮膚トラブルが起きやすくなります。 左側の身体に気づかないため、褥瘡(床ずれ)・発赤・傷に気づきにくく、悪化してから発見されることがあります。
整容動作が不十分になります。 左側の顔を洗わない・左側の髭を剃り忘れる・左側のボタンをかけないといった状態が見られます。
リハビリの効果が出にくくなります。 左側の手足を使おうとしない・訓練中に左側の指示に気づかないといった問題が起き、機能回復が遅れることがあります。
社会的な困難が生じます。 左側から話しかけられても反応しないため、周囲から「無視されている」と誤解されることがあります。
看護師として何を見ればよいか
半側無視の患者さんへの観察では、日常生活のあらゆる場面で片側への注意がどの程度向いているかを確認することが大切です。
食事場面での観察を行います。 左側(または無視側)の食事に手をつけるか・トレイ全体を認識しているか・食べ残しがあるかを確認します。
移動場面での観察を行います。 車椅子やベッド移動時に左側の壁・物・人にぶつかっていないか・移動中の視線がどちらを向いているかを確認します。
整容場面での観察を行います。 洗顔・整髪・髭剃り・服のボタンかけなどで、左側が抜けていないかを確認します。
自己認識の程度を確認します。 「左側が見えていないこと」に本人が気づいているか・指摘されたときの反応はどうかを観察します。
転倒リスクの評価を行います。 ベッドからの起き上がり・車椅子への移乗・歩行時の様子を観察し、左側への注意不足による危険がないかを確認します。
皮膚の状態を観察します。 左側の身体(肩・腕・腰・足)に発赤・褥瘡・傷がないかを確認します。
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看護目標
長期目標
患者さんが半側無視による事故(転倒・転落・皮膚損傷)を起こすことなく、安全な環境の中で日常生活を送ることができる。
短期目標
患者さんが食事時に無視側にも注意を向けるよう声掛けを受け、トレイ全体の食事を摂取できるようになる。
移動時に無視側の安全確認ができるようになり、壁や物へのぶつかりが減少する。
無視側の身体にも注意が向くよう促され、皮膚トラブルが早期発見される状態が保たれる。
看護計画の具体策
観察計画(観察項目)
患者さんの状態を多角的に把握するための観察内容です。
半側無視の程度(軽度・中等度・重度)を評価します。 食事場面での左側への注意(食べ残しの有無・トレイ全体の認識)を観察します。 移動場面での安全性(壁や物へのぶつかり・視線の向き)を確認します。 整容動作での左側の抜け(洗顔・整髪・ボタンかけ)を観察します。 自己認識の有無(無視があることへの気づき)を確認します。 転倒・転落のリスク評価を定期的に行います。 皮膚の状態(左側の発赤・褥瘡・傷・圧迫痕)を観察します。 日常生活動作の自立度を把握します。 リハビリへの取り組み状況を確認します。 ご家族の理解度・対応の状況を把握します。
ケア計画(直接的なケアの内容)
環境を工夫して安全を守ります。 ベッドは無視側(左側)を壁につけ、健側(右側)からの起き上がりを促します。 ナースコールは健側に置き、すぐ手が届くようにします。 病室のベッド配置は、健側から人の出入りが見える位置にします。 廊下を歩くときは健側の壁沿いに歩いてもらい、ぶつかりを防ぎます。
食事の工夫を行います。 トレイを健側に寄せすぎず、全体が視界に入る位置に置きます。 食事の途中で「左側にもおかずがありますよ」と声をかけ、無視側への注意を促します。 食器を色分けする・目立つ色のトレイマットを使うなどの工夫をします。 食べ残しがある場合は、トレイごと回転させて健側に持っていき、残りを食べられるよう支援します。
声掛けの工夫を行います。 患者さんに話しかけるときは健側(右側)から近づき、視界に入ってから声をかけます。 無視側から急に声をかけたり触れたりすると、驚かせてしまうため避けます。 「左を見てください」と言葉で促すよりも、健側から無視側へ視線を誘導する方が効果的です。
リハビリと連携します。 理学療法士・作業療法士と情報を共有し、訓練の内容や進み具合を把握します。 病棟でも訓練で学んだ方法(顔を左に向ける・左手を意識的に使うなど)を続けられるよう支援します。
移動時の安全を守ります。 車椅子移動時は必ず見守りを行い、左側への注意を促します。 「左に曲がりますよ」「左に壁がありますよ」と声をかけながら一緒に移動します。 歩行訓練中は必ず付き添い、左側の安全を確認します。
整容の支援を行います。 洗顔・整髪・髭剃りの際は、「左側も洗いましょう」「左側の髭も剃りましょう」と声をかけます。 鏡を使うことで、左側の様子を視覚的に確認できるよう促します。
皮膚の観察とケアを行います。 左側の身体を毎日観察し、発赤・褥瘡・傷がないか確認します。 体位変換時には左側にも十分な除圧を行い、褥瘡予防に努めます。 左側に傷や異常があった場合は、本人に伝えて注意を促します。
教育計画(患者さん・ご家族への説明)
患者さん本人への説明を行います。 半側無視とはどういう状態か・なぜ左側に気づきにくいのかを、わかりやすい言葉で説明します。 「左を意識的に見る」ことの大切さを伝え、日常生活の中で練習できるよう促します。 ただし、本人に自覚がない場合は無理に理解させようとせず、安全な環境をつくることを優先します。
ご家族への説明を行います。 半側無視の特徴(左側に注意が向かない・本人は気づいていないことが多い)をわかりやすく伝えます。 「わざと無視しているわけではない」「注意力の問題ではなく脳の損傷による症状である」ことを理解してもらいます。 家での関わり方(健側から話しかける・食事の配置を工夫する・左側の安全を確認する)を一緒に練習します。 退院後の生活環境の調整(家具の配置・動線の確保・危険な物の撤去)について具体的にお伝えします。
半側無視の評価方法
半側無視の程度を評価するために、いくつかの検査が使われます。
線分二等分試験では、横線の真ん中に印をつけてもらいます。 半側無視がある場合、中心より健側(右側)にずれた位置に印をつけます。
抹消試験では、紙に散らばった図形や文字をすべて消してもらいます。 無視側(左側)の図形が消されずに残ります。
模写課題では、花や時計の絵を見て描いてもらいます。 無視側の部分が描かれなかったり、左右非対称になります。
こうした評価は作業療法士や言語聴覚士が行うことが多いですが、看護師も結果を把握しておくことで、ケアに活かすことができます。
リハビリとの連携を大切に
半側無視の改善には、リハビリテーションとの連携が欠かせません。
作業療法士は、日常生活動作の訓練・視覚走査訓練(意識的に左を見る練習)・プリズム眼鏡を使った訓練などを行います。
看護師は、リハビリで学んだ方法を病棟生活の中でも続けられるよう支援します。 訓練の内容・患者さんの反応・進み具合を申し送りで共有し、チーム全体で統一したケアを行います。
まとめ:半側無視は丁寧な観察とケアで安全を守れる
半側無視は、患者さん自身が気づいていないことが多い症状です。
そのため、看護師が日常生活のあらゆる場面で注意深く観察し、安全を守りながら無視側への注意を促していくことが大切です。
環境を整え・声掛けを工夫し・リハビリと連携しながら、患者さんが安全に生活できるよう支えていくことが看護師の役割です。
半側無視のある患者さんやご家族は、日常生活の中で多くの困難と不安を抱えています。 そのそばに寄り添い、安全と安心を提供し続ける看護師の存在が、回復への大きな力になります。
この記事が、半側無視に関わる看護師さんや看護学生さんの参考になれば嬉しいです。








