悪心・嘔吐は、さまざまな疾患や治療に伴って出現する不快な症状で、患者さんの生活の質を著しく低下させます。
消化器疾患、薬物の副作用、化学療法、脳圧亢進、妊娠など、多様な原因によって引き起こされます。
看護師として、悪心・嘔吐のある患者さんに適切なケアを提供するためには、原因を正確にアセスメントし、症状緩和と合併症予防に焦点を当てた看護計画を立案することが不可欠です。
今回は悪心・嘔吐の看護計画について、実習や臨床現場で即座に活用できる具体的な内容をお伝えしていきます。
悪心・嘔吐とはどのような症状か
悪心とは、胃部不快感や吐き気を感じる主観的な症状で、嘔吐したいという切迫した感覚を伴います。
嘔吐とは、胃内容物が口腔から逆流して排出される現象です。
嘔吐中枢は延髄に存在し、さまざまな刺激により活性化されます。
消化管からの刺激、化学受容器引き金帯の刺激、前庭器官からの刺激、大脳皮質からの刺激などが嘔吐を引き起こします。
悪心・嘔吐が持続すると、栄養状態の低下、脱水、電解質異常、倦怠感など、さまざまな問題が生じます。
特に胃液の喪失により低クロール血症やアルカローシスを引き起こし、重症化するとテタニーや昏睡に至ることもあります。
また、嘔吐運動の繰り返しにより上半身の筋肉が疲労し、全身の倦怠感が増強します。
不快症状が続くことで、患者さんは強い不安やストレスを感じ、闘病意欲の低下にもつながります。
悪心・嘔吐患者の看護における基本目標
悪心・嘔吐のある患者さんの看護において、最も重要な目標は悪心・嘔吐が治まったと患者さん自身が表出できるようになることです。
症状を緩和し、快適に過ごせるよう支援することが看護の中心となります。
悪心・嘔吐は患者さんにとって非常に苦痛な症状であり、身体的・精神的な負担が大きくなります。
適切なケアにより症状を軽減し、食事や水分の摂取ができるようになることで、栄養状態と全身状態の改善を図ることができます。
また、脱水や電解質異常などの合併症を予防し、患者さんが安全に療養できるよう支援することも重要な目標です。
悪心・嘔吐に対する看護目標の設定
悪心・嘔吐のある患者さんに対する看護では、明確な長期目標と段階的な短期目標を設定することが重要です。
長期目標と短期目標の設定
長期目標としては、退院時までに悪心・嘔吐が治まったと表出できるようになる、という目標を設定します。
この長期目標には、症状が完全に消失すること、または症状があってもコントロールできるようになること、食事や水分を十分に摂取できるようになること、合併症が生じないことなどが含まれます。
患者さんが快適に日常生活を送れる状態に回復することを最終的なゴールとします。
長期目標を達成するために、段階的な短期目標を立てていきます。
短期目標の1つ目は、24時間以内に嘔吐することなく経過する、という目標を設定します。
まずは嘔吐という身体的に苦痛な症状を止めることが最優先の課題となります。
制吐薬の使用や環境調整、体位の工夫などにより、嘔吐を予防します。
短期目標の2つ目は、3日以内に悪心が軽減し、少量ずつでも経口摂取ができるようになることです。
悪心が軽減することで、水分や食事の摂取が可能になります。
最初は氷片や少量の水から始め、徐々に摂取量を増やしていきます。
消化の良い食品を選択し、無理なく摂取できるよう支援します。
短期目標の3つ目は、1週間以内に通常の食事量の半分以上を摂取でき、脱水や電解質異常の兆候が見られなくなることです。
栄養状態と水分バランスが改善し、合併症のリスクが減少することを目指します。
血液検査データが正常範囲に近づき、全身状態が安定することで、退院に向けた準備が整います。
観察計画の具体的内容
悪心・嘔吐のある患者さんに対する観察計画では、症状の程度と合併症の早期発見が重要です。
悪心の有無と程度の観察
悪心の有無とその程度を詳しく観察します。
悪心は主観的な症状であるため、患者さんの訴えを丁寧に聞き取ります。
悪心の程度を評価するため、数値評価スケールを用いることも有効です。
0点が全くない、10点が最悪の状態として、患者さんに点数をつけてもらいます。
悪心がいつから始まったか、どのような時に強くなるか、何をすると楽になるかなども確認します。
食事との関連、体位との関連、時間帯による変化なども観察します。
食事・水分摂取状況の観察
食事摂取量と水分摂取量を正確に記録します。
毎食ごとに、主食、主菜、副菜、汁物のそれぞれについて、どの程度摂取できているか記録します。
全量の何割を摂取したか、パーセンテージで記録すると分かりやすくなります。
水分摂取量も詳しく記録します。
飲料水、お茶、ジュース、スープなど、すべての水分摂取を含めます。
経口摂取が困難な場合は、輸液による水分投与量も合わせて記録します。
嘔吐の観察
嘔吐の有無と吐物の詳細を観察します。
嘔吐の回数、時間帯、食事との関連を記録します。
食直後の嘔吐は胃の機能障害を示唆し、食後1時間から4時間後の嘔吐は胃・十二指腸の異常を示唆します。
吐物の色を確認します。
透明または白色の吐物は胃液や唾液を示します。
黄色や緑色の吐物は胆汁の混入を示し、十二指腸からの逆流が考えられます。
赤色や黒色の吐物は血液の混入を示し、消化管出血の可能性があります。
コーヒー残渣様の吐物は、胃内で血液が胃酸と反応して変色したものです。
吐物の量を測定します。
少量か多量か、具体的にミリリットル単位で記録できればより正確です。
吐物の性状と混入物を確認します。
水様か、粘液性か、食物残渣が含まれているか観察します。
消化の程度も確認し、未消化の食物が多く含まれている場合は、胃の消化機能の低下が考えられます。
糞便臭がする場合は、腸閉塞の可能性があります。
吐物の臭いも重要な観察項目です。
酸っぱい臭いは胃酸を示し、腐敗臭や糞便臭は腸閉塞を示唆します。
バイタルサインの測定
体温、脈拍、血圧、経皮的酸素飽和度を定期的に測定します。
嘔吐中枢が刺激されると、近接する中枢も刺激されるため、さまざまなバイタルサインの変化が見られます。
脈拍は徐脈になることもあれば頻脈になることもあります。
血圧は変動しやすく、低下することもあれば上昇することもあります。
呼吸数の増加や呼吸促迫が見られることもあります。
経皮的酸素飽和度を測定し、低酸素状態がないか確認します。
誤嚥により肺炎を起こすリスクもあるため、注意が必要です。
食欲の有無の確認
食欲があるかどうかを確認します。
悪心・嘔吐に伴う不快症状が持続すると、食欲不振が亢進します。
食欲がない場合、その理由を探ります。
悪心のため食べたくないのか、味覚の変化があるのか、嗅覚の変化があるのか、口腔内の問題があるのかなどを確認します。
脱水症状の観察
脱水症状の有無を注意深く観察します。
皮膚や粘膜の乾燥の程度を確認します。
皮膚のツルゴールを評価し、弾力性が低下していないか確認します。
口腔粘膜や舌の乾燥、口渇の訴えの有無を確認します。
尿量、尿回数、尿性状を観察します。
尿量が減少していないか、1日の総尿量を測定します。
尿の色が濃くなっていないか、濃縮尿になっていないか確認します。
排尿回数が減少している場合は、脱水が進行している可能性があります。
その他の脱水症状として、眼球の陥没、血圧低下、頻脈、めまい、立ちくらみなども観察します。
全身状態の観察
脱力感、倦怠感、活気の有無を確認します。
嘔吐運動の繰り返しにより上半身の筋肉が疲労し、全身の倦怠感が増強します。
患者さんの表情、言動、活動性などから、全身状態を評価します。
顔面蒼白、冷汗の有無も観察します。
嘔吐中枢の刺激により血管運動中枢が刺激されると、これらの症状が現れます。
唾液分泌の亢進やめまいの有無も確認します。
検査データの確認
血液検査データを定期的に確認します。
尿素窒素が15ミリグラムパーデシリットル以上の場合、脱水が示唆されます。
カリウムが2.0ミリイクイバレントパーリットル以下の場合、低カリウム血症と判断されます。
低カリウム血症は嘔吐による胃液の喪失で起こりやすく、不整脈や筋力低下の原因となります。
ナトリウムが135ミリイクイバレントパーリットル以下の場合、低ナトリウム血症と判断されます。
総蛋白が6.0グラムパーデシリットル以下、アルブミンが2.5グラムパーデシリットル以下の場合、低栄養状態が示唆されます。
尿検査データも確認します。
尿比重が1.025以上の場合、脱水が示唆されます。
ケトン体陽性の場合、飢餓状態や糖尿病性ケトアシドーシスが疑われます。
随伴症状の観察
血圧変動、徐脈、頻脈、顔面蒼白、冷汗、脱力感、食欲不振、呼吸促迫、唾液分泌亢進など、悪心・嘔吐に伴う随伴症状の有無と程度を観察します。
これらの症状は、嘔吐中枢に近接する中枢が刺激されることで出現します。
下痢の有無も確認します。
消化管運動中枢の刺激により、逆蠕動の亢進や下痢が起こることがあります。
ケア計画の具体的実施方法
悪心・嘔吐のある患者さんに対するケア計画では、症状の緩和と合併症の予防が中心となります。
安楽な体位の工夫
安楽な体位を工夫します。
食後20分から30分は座位かファーラー位でいるよう勧めます。
上半身を起こすことで、胃内容物の逆流を防ぎ、嘔吐を予防できます。
嘔吐時には、誤嚥を防ぐため側臥位をとらせます。
ベッドの頭側を下げ、顔を横に向けることで、吐物が気道に入ることを防ぎます。
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患者さんが楽だと感じる体位を尊重し、無理な体位を強制しません。
クッションや枕を使用し、快適な姿勢を保てるよう工夫します。
食事内容の工夫
食事内容を工夫します。
消化の良い食品を選択します。
おかゆ、うどん、豆腐、白身魚、卵など、胃に負担をかけない食品を提供します。
脂っこい食品、香辛料の強い食品、繊維質の多い食品は避けます。
少量ずつ頻回に摂取するよう勧めます。
1回の食事量を減らし、回数を増やすことで、胃への負担を軽減します。
冷たい食品や常温の食品を提供します。
温かい食品は臭いが強く、悪心を誘発しやすいため、冷ましてから提供します。
患者さんの好みを聞き、食べたいものを優先的に提供します。
食欲がない時に無理に食べさせることは逆効果です。
水分補給を優先し、経口補水液やスポーツドリンクなど、電解質を含む飲料を勧めます。
環境調整
悪臭のない環境づくりを行います。
病室の換気を十分に行い、新鮮な空気を取り入れます。
吐物はすぐに除去し、臭いが残らないようにします。
芳香剤や消臭剤を使用する場合は、患者さんの好みを確認します。
強い香りが逆に悪心を誘発することもあるため、注意が必要です。
食事の臭いが悪心を誘発する場合は、食事を病室外で準備し、臭いを最小限にします。
室温と湿度を適切に保ち、快適な環境を整えます。
身体的ケアの実施
背中をさすります。
背部を優しくさすることで、筋の収縮を助け、沈静化を図ります。
体力の消耗を抑え、リラックス効果も得られます。
患者さんが心地よいと感じる強さとリズムで行います。
胃部の冷罨法を行います。
胃部に冷罨法を実施することで、蠕動運動を抑制させます。
胃粘膜に分布する末梢神経への刺激を緩和し、悪心を軽減します。
氷嚢やアイスノンを布で包み、直接皮膚に当てないよう注意します。
患者さんが不快に感じる場合は中止します。
精神的支援
声かけを行い、不安の軽減、精神的安定を図ります。
悪心・嘔吐は非常に不快な症状であり、患者さんは強い不安を感じています。
そばに付き添い、安心感を与えます。
もうすぐ楽になること、症状は必ず治まることを伝え、希望を持てるよう支援します。
患者さんの訴えを否定せず、共感的に受け止めます。
呼吸法やリラクゼーション法を指導し、不安を軽減します。
環境の清潔保持
吐物の除去と汚れたリネンの交換を速やかに行います。
嘔吐後は、すぐに吐物を除去します。
吐物が衣服や寝具に付着した場合は、速やかに交換します。
不潔な環境は患者さんの不快感を増大させ、さらなる悪心を誘発します。
清潔で快適な環境を保つことが、症状の緩和につながります。
嘔吐後は口腔ケアを行い、口腔内の吐物をすみやかに除去します。
嘔吐後の口腔内には吐物が残り、不快感が強くなります。
うがいを促し、口腔内を清潔にします。
自分でうがいができない場合は、湿らせたガーゼで口腔内を拭きます。
口腔ケアにより、不快感が軽減され、気分が改善します。
薬物療法の管理
医師の指示により制吐薬を投与します。
制吐薬には、中枢性制吐薬、末梢性制吐薬、抗ヒスタミン薬、抗コリン薬などがあります。
原因に応じて適切な薬剤が選択されるため、確実に投与します。
薬剤の効果と副作用を観察し、必要に応じて医師に報告します。
患者教育計画の詳細
悪心・嘔吐のある患者さんに対する教育は、症状の早期発見と適切な対処ができるようにすることを目的とします。
症状出現時の報告の促し
気分が悪いときは教えてくださいと伝えます。
悪心は主観的な症状であるため、患者さん自身からの訴えがなければ分かりません。
我慢せずに早めに知らせてもらうことで、症状が悪化する前に対処できます。
ナースコールの使い方を説明し、いつでも呼んでよいことを伝えます。
胃部不快感や嘔気が悪化した時は知らせてくださいと説明します。
症状の変化を早期に把握することで、適切な対応が可能になります。
どのような症状が悪化のサインなのか、具体的に説明します。
感染対策の指導
感染対策について説明します。
嘔吐物には病原体が含まれている可能性があるため、適切な処理が必要です。
自宅での嘔吐物の処理方法について説明します。
使い捨て手袋を使用すること、嘔吐物を拭き取った後は消毒すること、手洗いを徹底することなどを指導します。
ノロウイルスなどの感染性胃腸炎の場合は、家族への感染予防も重要です。
吐物の飛沫を吸い込まないこと、同じタオルを使用しないこと、食器は別に洗うことなどを説明します。
食事と水分摂取の指導
症状が落ち着いてきた時の食事の進め方について指導します。
最初は水分から始め、徐々に消化の良い食品に進めることを説明します。
一度に大量に摂取せず、少量ずつこまめに摂取することの重要性を伝えます。
脱水予防のための水分摂取の重要性を説明します。
経口補水液の作り方や市販品の紹介も有効です。
日常生活の工夫の指導
食後すぐに横にならないこと、ゆっくり食べること、ストレスを避けることなど、日常生活での工夫を指導します。
退院後の生活で注意すべき点についても説明します。
症状が再発した場合の対処方法や、受診が必要な症状についても伝えます。
看護計画実施における注意事項
悪心・嘔吐のある患者さんの看護計画を実施する際には、いくつかの重要な注意点があります。
誤嚥の予防が何より重要です。
嘔吐時には必ず側臥位をとらせ、吐物が気道に入らないよう注意します。
意識レベルが低下している患者さんでは、特に注意が必要です。
脱水と電解質異常の早期発見も重要です。
継続的な観察により、異常を早期に発見し、迅速に対応します。
重症化する前に輸液などの治療を開始することが大切です。
個別性の重視も必要です。
悪心・嘔吐の原因、程度、患者さんの年齢、基礎疾患などは一人ひとり異なります。
画一的なケアではなく、その患者さんに最も適したケアを提供します。
多職種との連携も欠かせません。
医師、薬剤師、管理栄養士などと協力してケアを提供します。
特に栄養管理においては、管理栄養士との連携が重要です。
患者さんの精神的サポートも重要な看護の役割です。
悪心・嘔吐は非常に不快な症状であり、患者さんは強い苦痛を感じています。
寄り添い、共感し、安心感を与えることが大切です。
実習での看護計画立案のポイント
看護学生が実習で悪心・嘔吐の看護計画を立案する際には、いくつかのポイントを押さえることが重要です。
悪心・嘔吐のメカニズムの理解が基本となります。
嘔吐中枢がどこにあるのか、どのような刺激で活性化されるのか、教科書で確認します。
原因のアセスメントが重要です。
なぜその患者さんに悪心・嘔吐が起こっているのか、原因を明らかにします。
原因によって、適切なケアが異なります。
観察項目の根拠を明確にすることが大切です。
なぜその観察が必要なのか、どのような異常を早期に発見するためなのかを理解します。
具体的で測定可能な目標設定を行います。
いつまでに、どの程度まで症状を改善させるか、明確に記述します。
実際の患者さんの状態に合わせた計画を立案します。
教科書通りの計画ではなく、受け持ち患者さんの個別性を反映させた計画を作成します。
患者さんの好みや生活習慣も考慮に入れます。
まとめ
悪心・嘔吐の看護計画は、症状を緩和し、合併症を予防することを目的とした重要な看護実践です。
観察計画、ケア計画、教育計画の三つの側面から系統的にアプローチし、患者さんの状態に応じた個別的なケアを提供することが求められます。
明確な長期目標と段階的な短期目標を設定し、具体的な観察項目、ケア内容、教育内容を計画することで、効果的な看護を提供することができます。
体位の工夫、食事内容の調整、環境整備、身体的ケア、精神的支援、清潔保持など、多面的なアプローチが必要です。
看護学生の皆さんは、実習での経験を通じて、教科書の知識と実際の患者さんのケアを結びつけ、実践力を高めていってください。
悪心・嘔吐という不快な症状に苦しむ患者さんに寄り添い、症状を緩和し、快適な療養生活を支援することが、私たち看護師の重要な使命なのです。








