はじめに
看護師として働く中で、突然の病気や事故により危機的状況に陥った患者さんと接する機会は少なくありません。
そのような時、患者さんの心理状態を理解し、適切な看護介入を行うために欠かせないのが「フィンクの危機理論」です。
この記事では、看護師・看護学生の皆さんが臨床現場で活用できるよう、フィンクの危機理論について詳しく解説します。
国家試験対策としても重要な内容ですので、ぜひ最後までお読みください。
フィンクの危機理論とは?基本概念を理解しよう
危機理論の定義
フィンクの危機理論(Fink’s Crisis Model)は、アメリカの心理学者ステファン・L・フィンク(Stephen L. Fink)によって提唱された理論です。
もともとは中途障害者(特に外傷性脊髄損傷による機能不全)が危機への適応していく過程をモデル化したもので、障害受容に至るプロセスを示した理論として知られています。対象は「ショック性危機に陥った中途障害者」を想定していますが、現在では看護現場において幅広く活用されています。
危機とは何か
危機とは、単に困難な状況を意味するだけでなく、人生における重要な局面や転換点という意味も持っています。危機は不安定な事態ではありますが、重要な転換期としての意味があり、成長へと至る出発点にもなり得るのです。
医療現場では、患者さんが健康障害に伴い、生命や身体機能の喪失に脅かされ、通常の役割が果たせなくなることが多々あります。そのため、患者さんや家族は危機に陥りやすい状況にあると言えるでしょう。
フィンクの危機理論:4つの段階を詳しく解説
フィンクの危機理論では、人が危機から適応に至るプロセスを連続する4つの段階で説明しています。各段階の特徴と看護介入のポイントを見ていきましょう。
第1段階:衝撃の段階(Shock Stage)
段階の特徴
衝撃の段階は、最初の心理的ショックの時期です。迫ってくる危険や脅威を察知し、自己保存への脅威を感じる段階で、現実には対処できないほど急激な変化に直面します。
主な症状・反応:
- 強烈な不安、パニック状態
- 無力感、混乱状態
- 思考の混乱、判断力の低下
- 理解力の著しい低下
- 身体症状(胸苦しさ、頭痛など)
この時期は、治療が開始される時期でもあり、障害が一時的なものか永久的なものか、まだわからない段階でもあります。
看護介入のポイント
- 安全で安心できる環境の提供:患者さんを物理的・心理的に保護する
- 温かく静かな見守り:過度な刺激を避け、そばにいることで安心感を与える
- 必要最小限の情報提供:混乱している状態では詳細な説明は控える
- 基本的ニーズの充足:食事、排泄、睡眠などの基本的な生活を支援
第2段階:防御的退行の段階(Defensive Retreat Stage)
段階の特徴
防御的退行の段階は、危機の意味するものに対して自らを守る時期です。現実に直面するには圧倒的すぎる状況のため、様々な防御機制を使って自己の存在を維持しようとします。
主な症状・反応:
- 無関心、現実逃避
- 否認、抑圧
- 願望思考、非現実的な多幸症
- 「きっと良くなる」「元に戻る」という希望的観測
- 急性身体症状の回復
この段階では、不安が軽減し、身体症状も改善することが多いのが特徴です。
看護介入のポイント
- 否認を無理に取り除かない:患者さんの防御機制を尊重する
- ありのままを受け止める:患者さんの発言や行動を否定しない
- 希望を支持する:「良くなりたい」という気持ちを大切にする
- 段階的な現実受容の支援:少しずつ現実に向き合えるよう支援
第3段階:承認の段階(Acknowledgment Stage)
段階の特徴
承認の段階は、危機の現実に直面する時期です。もはや変化に抵抗できないことを知り、自己イメージの喪失を理解する最も辛い段階と言えるでしょう。
主な症状・反応:
- 無感動、怒り
- 抑うつ、苦悶
- 深い悲しみ
- 強い不安、再度の混乱
- 絶望感
- 時に自殺念慮
徐々に新しい現実を判断し、自己を再認識していく過程でもありますが、状況が圧倒的すぎると自殺を企てることもあるため、注意深い観察が必要です。
看護介入のポイント
- 積極的傾聴:患者さんの感情表出を促し、受け止める
- 感情の受容:怒りや悲しみなどの感情を否定しない
- 自殺リスクの評価:自殺念慮の有無を慎重に評価
- 問題解決能力の支援:患者さん自身の力を信じ、支援する
- 専門職連携:必要に応じて心理士や精神科医との連携
第4段階:適応の段階(Adaptation Stage)
段階の特徴
適応の段階は、期待できる方法で積極的に状況に対処する時期です。危機の望ましい結果であり、新しい自己イメージや価値観を築いていく段階です。
主な症状・反応:
- 不安の減少
- 新たな価値観の形成
- 新しい自己イメージの確立
- 現在の能力や資源での満足感の増加
- 前向きな取り組み
現在の自分の能力や資源で満足する経験が増え、しだいに不安が軽減していきます。
看護介入のポイント
- 新しい価値観形成の支援:患者さんの新たな生き方を支援
- 達成感の促進:小さな成功体験を積み重ねる
- フィードバックの提供:努力や成果を認め、伝える
- 社会復帰の準備:退院後の生活に向けた準備を支援
- セルフケア能力の向上:自立に向けた支援
看護実践での活用方法
アセスメントのポイント
患者さんがどの段階にいるかを正しくアセスメントすることが重要です:
- 言動の観察:患者さんの発言内容や行動パターンを注意深く観察
- 感情の変化:喜怒哀楽の表現方法や頻度の変化
- 身体症状:各段階で現れやすい身体症状の有無
- 社会的関係:家族や友人との関わり方の変化
家族への支援
患者さんだけでなく、家族も同様に危機状況にあることを理解し、家族への支援も重要です:
- 家族の心理状態のアセスメント
- 情報提供とコミュニケーション支援
- 家族の対処能力の向上支援
- 社会資源の活用支援
理論の限界と注意点
個人差の存在
すべての患者さんが必ずしも4つの段階を順序通りに進むわけではありません:
- 段階を飛び越える場合がある
- 前の段階に戻ることがある
- 適応段階に到達できない場合もある
- 各段階にとどまる期間には個人差がある
文化的背景の考慮
患者さんの文化的背景、価値観、宗教的信念なども危機への対応に大きく影響するため、個別性を重視した関わりが必要です。
他の危機理論との比較
看護において活用される他の危機理論と比較して理解を深めましょう:
それぞれに特徴があり、状況に応じて使い分けることが重要です。
国家試験対策のポイント
看護師国家試験では、フィンクの危機理論について以下の点がよく出題されます:
覚え方のコツ
「衝撃から防御!商人が敵だぉ」
- 衝撃(衝撃の段階)
- 防御(防御的退行の段階)
- 商人(承認の段階)
- 敵だ(適応の段階)
頻出問題
- 4つの段階の順序
- 各段階の特徴的な症状
- 適切な看護介入
- 第1段階は何か(答え:衝撃)
まとめ
フィンクの危機理論は、突然の病気や障害に直面した患者さんとその家族の心理状態を理解し、適切な看護介入を行うための重要な理論的枠組みです。
重要なポイント:
- 4つの段階:衝撃→防御的退行→承認→適応
- 個別性の重視:すべての患者さんが同じ経過をたどるわけではない
- 段階に応じた介入:各段階の特徴を理解した上での適切な支援
- 家族への配慮:患者さんだけでなく家族も危機状況にある
- 長期的視点:適応は一朝一夕には達成されない
臨床現場では、この理論を参考にしながらも、目の前の患者さん一人ひとりの個別性を大切にし、その人らしい適応を支援していくことが大切です。
看護学生の皆さんは、実習や将来の臨床実践でこの理論を活用し、患者さんとその家族により良い看護を提供できるよう、しっかりと理解を深めてください。
この記事が看護師・看護学生の皆さんの学習に役立てば幸いです。臨床現場での実践や国家試験対策にぜひお役立てください。











