消化性潰瘍は現代社会において増加傾向にある疾患の一つで、看護師にとって重要な看護対象です。
今回は、十二指腸潰瘍で緊急手術となった事例を通して、ゴードン11項目を用いたアセスメントの方法と看護ケアについて詳しく解説していきます。
消化性潰瘍の基礎知識
消化性潰瘍とは、胃や十二指腸の壁が胃酸によって消化され、組織欠損を起こした状態を指します。
従来は胃酸などの攻撃因子と胃粘膜を保護する防御因子のバランス異常が原因とされていましたが、近年はヘリコバクター・ピロリ菌の関与が明らかになっています。
胃潰瘍は50歳代、十二指腸潰瘍は40歳代に好発し、男性に多く見られる傾向があります。
主症状は心窩部痛で、胃潰瘍では食後に、十二指腸潰瘍では空腹時に痛みが現れやすいという特徴があります。
事例紹介:Lさんの病歴と経過
今回検討する事例は、55歳男性のLさんです。
会社員として係長を務め、51歳時に十二指腸潰瘍の既往があります。
家族構成は妻と2人の息子で、完璧主義でストレスに弱い性格という特徴があります。
喫煙歴は30年間で1日25本、飲酒はビール600mL×4本という生活習慣を持っていました。
係長昇進後は仕事の負荷が増大し、朝6時半から夜23時過ぎまでの長時間労働が常態化していました。
10月に入ると夜間の上腹部痛により睡眠が障害され、タール便も出現しましたが、多忙により受診を先延ばしにしていました。
11月5日深夜、激烈な上腹部痛と冷汗により救急搬送され、十二指腸潰瘍穿孔の診断で緊急手術となりました。
ゴードン11項目によるアセスメント
マージョリー・ゴードンが提唱した機能的健康パターンは、看護診断を導出するための体系的なアセスメントツールとして広く活用されています。
健康知覚-健康管理パターン
Lさんは51歳時の十二指腸潰瘍既往があるにも関わらず、生活習慣の改善が不十分でした。
危険因子として喫煙、過度の飲酒、不規則な食生活、ストレス過多が挙げられます。
空腹時痛やタール便という明らかな症状があったにも関わらず、仕事を優先して受診を遅らせたことは、健康管理意識の低さを示しています。
この状況は、疾患に対する知識不足と健康行動の実践不足を表しており、再発予防のための教育が必要です。
栄養-代謝パターン
Lさんの食生活は極めて不規則で、朝食は自宅で摂取するものの、昼食・夕食は外食中心でした。
コーヒーの多飲や油揚げなどの刺激性食品の摂取も胃粘膜への負担となっていました。
食欲低下とタール便の出現は、潰瘍からの出血を示唆する重要な徴候でした。
栄養状態の評価と適切な食事療法の指導が必要な状況です。
排泄パターン
タール便の出現は上部消化管出血を示す典型的な症状です。
黒色で粘稠性のある便は、胃酸による血液の変性によるものです。
排便パターンの変化を早期に発見し、適切な対応を行うことで、重篤な合併症を予防できる可能性がありました。
活動-運動パターン
係長昇進後の長時間労働により、身体活動量の減少と慢性的な疲労状態が続いていました。
趣味の釣りは唯一のストレス発散方法でしたが、頻度が限られていました。
適度な運動習慣の確立が、ストレス管理と全身状態の改善に重要です。
睡眠-休息パターン
10月以降、夜間の上腹部痛により睡眠が頻回に中断され、熟睡感の欠如と日中の疲労感が増強していました。
睡眠の質の低下は、ストレス耐性をさらに低下させ、症状悪化の悪循環を形成していました。
認知-知覚パターン
Lさんは症状の重要性を適切に認識できていませんでした。
空腹時痛を軽視し、タール便の意義を理解していなかったことが、受診遅延につながりました。
疾患に関する正しい知識の提供と症状の意味についての教育が必要です。
自己知覚-自己概念パターン
完璧主義的な性格と係長としての責任感が、健康よりも仕事を優先する行動パターンを形成していました。
自己の健康状態を客観視する能力の育成と、適切な優先順位の設定が課題となります。
役割-関係パターン
係長としての職務遂行と部下の指導に強い責任感を持っていました。
しかし、過度の責任感が自身の健康管理を犠牲にする結果となっていました。
家族との関係は良好でしたが、健康問題について十分な相談ができていませんでした。
セクシュアリティ-生殖パターン
本事例では特に問題となる情報は提示されていませんが、慢性的なストレスと疲労が性的機能に影響を与える可能性があります。
コーピング-ストレス耐性パターン
主要なストレス対処方法が喫煙と飲酒という不適切な方法でした。
仕事のストレスに対する建設的な対処法が確立されておらず、ストレス管理スキルの習得が急務です。
価値-信念パターン
仕事に対する高い価値観と責任感は評価できますが、健康に対する価値観が相対的に低い状況でした。
価値観の再構築と優先順位の見直しが必要です。
看護診断と看護計画
アセスメント結果から導出される主要な看護診断は以下の通りです。
非効果的健康管理:疾患に関する知識不足と不適切な生活習慣に関連した健康行動の実践不足。
疼痛:潰瘍による組織損傷に関連した急性疼痛。
栄養摂取過多または過少:不規則な食生活と刺激性食品の摂取に関連した栄養バランスの異常。
看護介入と教育指導
急性期の看護
手術後の疼痛管理と合併症の早期発見が最優先となります。
バイタルサインの厳密な観察と腹部症状のアセスメントを継続的に実施します。
水分・電解質バランスの管理と適切な栄養補給も重要な要素です。
回復期の看護教育
退院後の再発予防に向けた包括的な患者教育を実施します。
生活習慣の修正、食事療法、服薬管理、ストレス対処法について具体的な指導を行います。
禁煙・節酒の重要性を説明し、実現可能な目標設定を支援します。
家族への支援
家族の理解と協力は、患者の行動変容において極めて重要です。
妻や息子たちに対して疾患の理解と支援方法について説明し、家族ぐるみでの健康管理を促進します。
継続看護の重要性
外来フォローアップ
定期的な外来受診により、症状の再燃や合併症の早期発見を図ります。
内視鏡検査や血液検査による客観的評価と、生活習慣の改善状況の確認を継続します。
職場との連携
産業保健師や人事部門との連携により、働き方の改善と職場環境の調整を支援します。
残業時間の制限や業務分担の見直しなど、具体的な対策を検討します。
予防的視点での健康教育
早期発見の重要性
症状の自己観察方法と受診のタイミングについて詳しく教育します。
特に空腹時痛、食欲不振、便色の変化などの警告症状について説明します。
ライフスタイルの改善
禁煙支援、適度な飲酒、規則正しい食生活、ストレス管理技法など、包括的なライフスタイル改善プログラムを提案します。
まとめ
消化性潰瘍の看護においては、急性期の症状管理だけでなく、再発予防に向けた長期的な視点での支援が重要です。
ゴードン11項目を用いた体系的なアセスメントにより、患者の全体像を把握し、個別性に応じた看護計画を立案することができます。
特に生活習慣の改善とストレス管理は、再発予防の鍵となる要素です。
患者の価値観や生活背景を理解し、実現可能な目標設定と継続的な支援を提供することで、患者のQOL向上と疾患の再発予防が期待できます。
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