「伝えたいのに伝わらない」「話しかけても反応が薄い」——こうした状況は、患者さんにとっても、関わる家族にとっても、とても辛い体験です。
コミュニケーション障害とは、言語や非言語的な手段を使って他者と意思疎通をはかることが難しい状態を指します。
脳卒中後の失語症、認知症の進行、気管切開による発声困難、発達障害、聴覚障害など、その原因はさまざまです。
コミュニケーションが難しくなると、痛みや不安、希望などを伝えられないだけでなく、孤立感や自尊感情の低下にもつながっていきます。
この記事では、コミュニケーション障害の看護計画について、看護目標から観察・ケア・指導の内容まで、看護学生にもわかりやすく解説していきます。
コミュニケーション障害とはどんな状態か
コミュニケーション障害は、北米看護診断協会が定める看護診断のひとつで、言葉を使ったやりとりに何らかの困難が生じている状態です。
言葉を話すこと自体が難しい場合だけでなく、話されている内容を理解できない、文字を読んだり書いたりできない、表情やジェスチャーで気持ちを伝えにくいといった状況も含まれます。
医学的には、以下のような状態でこの診断が用いられることが多いです。
脳卒中や脳腫瘍による失語症(言葉を理解したり話したりする機能が低下した状態)。
気管切開や人工呼吸器装着による発声困難。
認知症の進行による言語機能の低下。
聴覚障害や視覚障害による情報の受け取りにくさ。
構音障害(発音がうまくできない状態)を生じる神経疾患(パーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症など)。
発達障害や知的障害による言語発達の遅れ。
これらの状態にある患者さんは、自分の気持ちや症状を医療者に伝えることが難しく、適切なケアを受けにくくなるリスクがあります。
コミュニケーション障害が患者さんに与える影響
コミュニケーションがうまくとれない状態が続くと、患者さんにはさまざまな影響が出てきます。
痛みや不快感を伝えられないため、症状のコントロールが難しくなります。
自分の意思を伝えられないことへの焦りや怒り、悲しみが蓄積していきます。
医療スタッフや家族との関係が希薄になり、孤立感が高まります。
治療や検査の説明が理解できないことで、不安や恐怖が強まります。
自己表現の機会が少なくなることで、自尊感情が低くなっていきます。
こうした二次的な問題を防ぐためにも、コミュニケーション障害を持つ患者さんへの看護は、身体的なケアと並行して丁寧に行っていくことが大切です。
どんな患者さんにこの診断を考えるか
実習や臨床の場で、以下のような場面に出会ったとき、コミュニケーション障害の看護診断を念頭に置きます。
話しかけても反応が乏しい、あるいは全く返答がない患者さん。
言葉は出るが、意味のある文章にならない患者さん(失語症の表出性障害)。
こちらの話は理解できているようだが、自分では言葉が出てこない患者さん。
気管切開中で声が出せず、口の動きだけで伝えようとしている患者さん。
筆談を試みるが、文字がうまく書けない患者さん。
外国語を母国語とし、日本語でのやりとりが難しい患者さん。
これらの状況では、患者さんが何を伝えようとしているかを丁寧に読み取る姿勢が、看護師に求められます。
看護目標
長期目標
患者さんが自分に合ったコミュニケーション手段を使って、基本的な意思や気持ちを医療スタッフや家族に伝えられるようになる。
短期目標
患者さんが痛みや不快感など、身体的な訴えをジェスチャー・筆談・文字盤などの手段を使って伝えられるようになる。
患者さんがコミュニケーションへの焦りや不安を表情や態度で示したとき、看護師がそれを受け止め、安心できる関わりを提供できる。
患者さんと家族が、退院後も活用できるコミュニケーション手段を一緒に練習し、理解できるようになる。
具体的なケアの内容
観察計画(何を観察するか)
患者さんの言語機能の状態を観察します。
自発的に言葉が出るか、出るとしたらどの程度の長さや内容か、こちらの話を理解しているかどうかを確認します。
表情、視線、手の動き、うなずきなど、非言語的なサインを注意深く観察します。
コミュニケーションへの意欲の変化(積極的に伝えようとするか、あきらめてしまっているか)を観察します。
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痛みや不快感を伝えられているかどうかを確認し、伝えられていない可能性があると考えたときは状態を細かく観察します。
言語聴覚士による評価内容や、言語機能の回復経過を確認します。
家族がどのように患者さんと関わっているか、患者さんが家族に対してどのような反応をしているかを観察します。
焦り、怒り、落ち込みなど、コミュニケーションの困難に伴う感情的な反応が見られないかを観察します。
ケア計画(直接的なかかわり)
患者さんに話しかけるときは、ゆっくり・はっきり・短い文で話しかけます。
一度に多くの情報を伝えるのではなく、一つのことを確認してから次に進むよう心がけます。
「はい」か「いいえ」で答えられる質問を使うことで、患者さんが反応しやすい環境を整えます。
文字盤、五十音表、絵カード、タブレット端末など、患者さんの状態に合ったコミュニケーションツールを準備します。
気管切開中で発声できない患者さんには、口の動きを読む練習を看護師側も積極的に行います。
患者さんが伝えようとしていることを途中でさえぎらず、最後まで待ちます。
たとえうまく伝わらなくても、伝えようとしている努力を言葉で認めます。
「一生懸命伝えようとしてくれているのがわかります」という姿勢を、言葉と態度の両方で示します。
コミュニケーションに時間がかかることを前提に、訪室時間やケアのスケジュールに余裕を持たせます。
言語聴覚士と密に連携し、言語訓練の内容や進捗を共有して、日常のかかわりに反映させます。
患者さんが感情的になったときは、まずその感情を受け止め、落ち着ける環境を整えます。
教育・指導計画(患者さんへの説明や指導)
患者さんに対して、今使えるコミュニケーション手段(文字盤・絵カード・タブレットなど)の使い方をわかりやすく説明します。
言語機能の回復には時間がかかることや、焦らずに少しずつ練習することが大切であることを、患者さんのペースに合わせて伝えます。
患者さんが自分から伝えようとする意欲を持てるよう、小さな成功体験を積み重ねることの大切さを伝えます。
家族に対しては、患者さんとのやりとりで心がけてほしいことを具体的に伝えます。
たとえば、ゆっくり話す、一度にたくさん質問しない、患者さんの返答を急かさない、といった関わり方を伝えます。
家族が焦ったり落ち込んだりしないよう、家族自身の気持ちにも目を向け、必要に応じて家族へのサポートも行います。
退院後に活用できる社会資源(言語聴覚士の外来リハビリ、訪問リハビリ、コミュニケーション支援機器の貸し出しなど)についての情報を、タイミングを見て提供します。
言語聴覚士との連携の大切さ
コミュニケーション障害のケアでは、言語聴覚士との連携が欠かせません。
言語聴覚士は、失語症・構音障害・嚥下障害などの専門的な評価と訓練を行う医療職です。
看護師は病棟での日常的なかかわりのなかで、言語訓練の成果を実生活に結びつける橋渡し役を担います。
言語聴覚士がどのようなアプローチで訓練を進めているかを把握し、看護師の声かけや関わり方をそれに合わせることで、患者さんの回復がより着実なものになっていきます。
チームとして情報を共有し、統一したかかわり方をすることが、コミュニケーション障害のケアでは特に大切です。
看護師として意識したいこと
コミュニケーション障害を持つ患者さんと関わるとき、看護師が最も意識したいのは「伝わらない側の辛さ」に想像を向けることです。
言葉が出てこない、伝えても理解してもらえない——これは患者さんにとって、深い孤独と無力感を生む体験です。
看護師がその場をさっと切り上げてしまったり、患者さんの代わりに先に答えを決めてしまったりすることは、患者さんの自己表現の機会を奪うことになります。
たとえ時間がかかっても、患者さんが自分の言葉で、あるいは自分の手段で伝えようとする機会を守ることが大切です。
また、コミュニケーションが難しいからといって、患者さんの意思決定に関わる場面から外してしまうことも避けるべきです。
治療の選択や日常生活の希望について、患者さんが参加できる形を工夫して整えることが、その人の尊厳を守ることにつながります。
まとめ
コミュニケーション障害の看護計画は、言葉でのやりとりが難しい状況にある患者さんに対して、その人に合ったコミュニケーション手段を一緒に見つけ、意思疎通の機会を守っていくためのケアです。
長期目標として患者さんが自分なりの手段で意思を伝えられるようになることを目指し、短期目標を一歩ずつ積み上げていきます。
観察・ケア・指導の三つの視点からかかわることで、患者さんの孤立を防ぎ、その人らしい生活を支えることができます。
言語聴覚士をはじめとした多職種と連携しながら、病棟の日常のなかで患者さんのコミュニケーションを支え続けることが、看護師の大切な役割です。
看護学生のみなさんが実習や国家試験の学習でこの診断と向き合うとき、この記事が少しでも助けになれれば幸いです。








