S状結腸がんは大腸がんの中でも頻度の高い疾患で、適切なアセスメントと看護ケアが患者の予後に大きく影響します。
今回は73歳女性のS状結腸がん患者を事例に、ゴードン11項目を用いたアセスメント方法と術前術後の看護過程について詳しく解説していきます。
S状結腸がんの基礎知識と看護の重要性
S状結腸がんは大腸がん全体の約25-30%を占める比較的頻度の高いがんです。
早期では自覚症状に乏しく、進行すると腹部症状や排便異常、腸閉塞などの症状が現れます。
治療の中心は外科的切除で、病期に応じて化学療法や放射線療法が併用されます。
高齢者に多く発症するため、併存疾患や全身状態を考慮した包括的なアセスメントが必要となります。
事例紹介:A氏の病歴と現状
今回検討する事例は、73歳女性のA氏です。
診断はStageIIIb S状結腸がんで、腹腔鏡下S状結腸切除術とD3リンパ郭清術が予定されています。
既往歴として66歳からの高血圧症があり、アムロジピン3.5mgで管理されています。
3年間にわたる血便を痔と自己判断し、受診が遅れた経緯があります。
家族構成は76歳の舌癌治療中の夫と46歳の義理の娘で、介護力に課題があります。
ゴードン11項目による包括的アセスメント
マージョリー・ゴードンが提唱した機能的健康パターンは、がん患者の複雑なニーズを体系的に評価するための有効なフレームワークです。
健康知覚-健康管理パターン
A氏の健康管理行動には矛盾した特徴が見られます。
高血圧診断後は定期的な散歩や服薬管理を行い、健康意識の高さを示しています。
しかし、3年間続いた血便を痔と自己判断し、受診を先延ばしにした行動は健康管理の課題を示しています。
CEA7.3ng/mlという腫瘍マーカー上昇も、症状を軽視した結果として現れました。
現在は術前訓練に積極的に取り組んでおり、治療への前向きな姿勢が確認されます。
栄養-代謝パターン
栄養状態の評価と術前術後の栄養管理が重要な要素となります。
身長156cm、体重59kgでBMI24.3と標準範囲内ですが、がんによる代謝異常の可能性があります。
空腹時血糖値の異常指摘があり、糖代謝への注意が必要です。
魚アレルギーがあるため、術後の食事内容に配慮が必要です。
術前処置として腸管洗浄剤の使用と絶食が予定されており、水分・電解質バランスの管理が重要となります。
排泄パターン
消化器がんの中核となるアセスメント項目です。
3年間の血便は腫瘍からの出血を示唆する重要な症状でした。
現在は貧血症状がないため、出血量は軽度と考えられますが、継続的な観察が必要です。
術前処置としてマグコロール300mlとセンノシド3錠による腸管洗浄が予定されています。
術後は人工肛門造設の可能性もあり、排泄パターンの大幅な変化に対する準備が必要です。
活動-運動パターン
日常的な散歩習慣は術後回復に有利な要因となります。
現在の身体活動レベルを維持することで、術後の早期離床と合併症予防に効果が期待できます。
高血圧があるものの、血圧値は比較的コントロール良好です。
術後は段階的な活動拡大を計画し、廃用症候群の予防を図ります。
睡眠-休息パターン
術前不安と入院環境の変化が睡眠に影響を与える可能性があります。
必要に応じてリスミー2mgの処方があり、睡眠障害への対応が準備されています。
術前日は腸管洗浄による頻回の排便があり、睡眠の質の低下が予想されます。
術後は疼痛や環境要因による睡眠障害のリスクがあります。
認知-知覚パターン
73歳という年齢を考慮した認知機能の評価が重要です。
現在は明確な認知機能低下の記載がないため、正常範囲と推測されます。
術前訓練への積極的な取り組みは、理解力と学習能力の良好さを示しています。
術後は麻酔や疼痛の影響による一時的な認知機能低下の可能性があります。
自己知覚-自己概念パターン
がん診断による心理的衝撃と自己概念の変化に注意が必要です。
手術に対して楽観的な態度を示していますが、がん告知の受容過程を評価する必要があります。
Stage IIIbという進行度に対する理解と受容状況の確認が重要です。
術後の身体的変化や機能障害に対する適応能力の評価も必要となります。
役割-関係パターン
家族関係と介護力の評価が重要な課題となります。
76歳の舌癌治療中の夫は介護力が期待できない状況です。
46歳の義理の娘との関係性と、実際の介護支援能力の評価が必要です。
早期退院を希望していますが、家庭での介護体制に課題があります。
セクシュアリティ-生殖パターン
高齢女性としての性的機能への影響は限定的と考えられます。
夫婦関係や親密性への手術の影響について、必要に応じて配慮します。
腹部手術による身体イメージの変化と、それに伴う心理的影響を評価します。
コーピング-ストレス耐性パターン
がん診断と手術に対するストレス対処能力の評価が重要です。
術前訓練への積極的参加は、問題解決型コーピングの表れと考えられます。
楽観的な態度の背景にある防衛機制の可能性も考慮が必要です。
無喫煙・社交的飲酒という生活習慣は、比較的健康的なストレス対処法を示しています。
価値-信念パターン
健康と生命に対する価値観の理解が重要です。
早期回復と退院への強い希望は、家族への責任感を反映している可能性があります。
治療方針に対する理解と同意の程度を評価し、必要に応じて再説明を行います。
宗教的・文化的背景が治療方針に影響する場合は、適切な配慮を行います。
看護診断と看護計画
術前期の主要な看護診断
不安:がん診断と手術に関連した心理的不安。
知識不足:手術や術後経過に関する情報不足。
感染リスク状態:手術侵襲と免疫機能低下による感染の可能性。
急性疼痛リスク状態:手術侵襲による術後疼痛の可能性。
術後期の主要な看護診断
急性疼痛:手術侵襲に関連した創部痛。
活動耐性低下:手術侵襲と安静臥床に関連した身体機能低下。
栄養摂取不足リスク状態:消化器手術による摂食困難の可能性。
皮膚統合性障害:手術創に関連した創傷治癒遅延リスク。
術前看護の重点
心理的支援
がん告知と手術への不安軽減が最重要課題です。
治療方針や手術方法について十分な説明を行い、理解を促進します。
家族の状況を考慮し、退院後の生活についても現実的な計画を立案します。
術前準備
腸管洗浄と絶食管理を適切に実施します。
水分・電解質バランスの維持と、血圧管理を継続します。
術前訓練として深呼吸法、咳嗽法、早期離床の指導を実施します。
術後看護の重点
疼痛管理
硬膜外持続鎮痛法による効果的な疼痛コントロールを実施します。
疼痛評価スケールを用いた客観的評価と、適切な鎮痛薬調整を行います。
早期離床と呼吸器合併症予防のため、十分な疼痛管理が重要です。
合併症予防
術後合併症の早期発見と予防に重点を置きます。
創部感染、腸閉塞、深部静脈血栓症などの合併症リスクを評価します。
バイタルサイン、創部状態、腹部症状の継続的な観察を行います。
栄養管理
段階的な経口摂取の再開を支援します。
消化器症状の観察と、栄養状態の評価を継続的に実施します。
魚アレルギーを考慮した食事内容の調整を行います。
退院支援と継続看護
家族支援
限られた介護力の中での在宅生活支援が重要な課題です。
社会資源の活用と、訪問看護・介護サービスの導入を検討します。
義理の娘への介護技術指導と、心理的支援を実施します。
外来フォローアップ
定期的な外来受診による継続的な評価が必要です。
腫瘍マーカーや画像検査による再発・転移の早期発見を図ります。
化学療法の必要性と実施可能性について評価します。
多職種連携の重要性
チームアプローチ
医師、看護師、薬剤師、栄養士、ソーシャルワーカー等との連携が不可欠です。
患者の全体像を共有し、統一したケア方針を確立します。
退院調整において、地域の医療・介護サービスとの連携を図ります。
まとめ
S状結腸がん患者の看護においては、ゴードン11項目を基盤とした包括的アセスメントが極めて重要です。
がんという疾患の特性と高齢者の身体的・社会的特徴を理解し、個別性に応じた看護計画を立案することが求められます。
術前の心理的支援から術後の合併症予防、退院支援まで一貫した看護提供により、患者のQOL向上と最良のアウトカムを目指します。
家族の状況や社会的背景を十分に考慮し、実現可能な退院計画の立案と継続的な支援体制の構築が重要な要素となります。
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