糖尿病患者の看護過程作成に悩んでいる看護学生の皆さん、こんにちは。
ヘンダーソンの14の基本的欲求を使った糖尿病の看護過程は、血糖コントロール、合併症の管理、生活習慣の改善、インスリン療法の導入など、多面的なアセスメントが求められるため、多くの学生が難しく感じるテーマです。
本記事では、2型糖尿病でインスリン導入予定の60代男性の架空事例を用いて、ヘンダーソンの各欲求別にアセスメントのポイントと看護問題の導き方を具体的に解説します。
この記事を読むことで、糖尿病患者の全体像把握から看護計画立案までの流れが理解でき、実習記録作成の参考になるはずです。
- 事例紹介|2型糖尿病でインスリン導入予定の60代男性
- ヘンダーソン14の基本的欲求別アセスメントのポイント
- 1. 正常に呼吸する
- 2. 適切に飲食する
- 3. あらゆる排泄経路から排泄する
- 4. 身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する
- 5. 睡眠と休息をとる
- 6. 適切な衣類を選び、着脱する
- 7. 衣類の調節と環境の調整により、体温を生理的範囲内に維持する
- 8. 身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
- 9. 環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
- 10. 自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションをもつ
- 11. 自分の信仰に従って礼拝する
- 12. 達成感をもたらすような仕事をする
- 13. 遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
- 14. “正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
- 看護問題の優先順位と看護計画の立案
- まとめ|糖尿病看護過程のポイント
事例紹介|2型糖尿病でインスリン導入予定の60代男性
患者プロフィール
J氏、61歳男性、会社員(管理職)
診断名:2型糖尿病、糖尿病腎症3期、糖尿病神経障害、高血圧症、脂質異常症
既往歴:陳旧性脳梗塞(後遺症なし)
家族構成:妻と二人暮らし、成人した子供2人(遠方在住)
入院の経緯
45歳時に会社の健診で2型糖尿病と診断され、当初は食事・運動療法で経過観察していました。
その後、内服薬による治療を開始しましたが、仕事が忙しく外来での糖尿病教室への参加は数回のみでした。
最近、血糖コントロールが悪化してきたため、糖尿病教育とインスリン導入を目的に入院となりました。
入院時データ
身長168cm、体重78kg、BMI 27.7
血糖値385mg/dL、HbA1c 9.2%
血圧145/88mmHg、脈拍72回/分
検査データ
Alb 3.0g/dL、TP 6.2g/dL
BUN 18mg/dL、Cre 0.85mg/dL
eGFR 52mL/分、尿蛋白(+〜2+)
総コレステロール215mg/dL、中性脂肪268mg/dL
合併症
糖尿病腎症3期(顕性腎症期)
糖尿病神経障害
両足趾に白癬あり、踵の皮膚乾燥あり
生活習慣
食事:1日3食不規則、外食多い、間食あり
運動:ゴルフ月1回、最近は登山の頻度減少
飲酒:日本酒1合またはビール350mL毎晩
喫煙歴:20〜56歳まで1日20本
ヘンダーソン14の基本的欲求別アセスメントのポイント
1. 正常に呼吸する
主観的データ(S情報)
特に呼吸に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
BMI 27.7と肥満
糖尿病腎症3期
血糖値385mg/dL、HbA1c 9.2%
心電図異常なし
呼吸困難感なし
アセスメントの要点
肥満は肺の容量を制限し、呼吸筋の働きを妨げる可能性があります。
糖尿病腎症が進行し腎不全期に移行すると、心不全を引き起こし肺うっ血による呼吸困難のリスクがあります。
血糖コントロール不良により、糖尿病性ケトアシドーシスのリスクがあります。
ケトアシドーシスではクスマウル呼吸(深く速い呼吸)が出現する可能性があります。
現時点では心電図異常なく、呼吸困難の訴えもないため、呼吸に関する問題は生じていません。
ただし、今後の合併症進行に注意が必要です。
2. 適切に飲食する
主観的データ(S情報)
外食が多いです
間食もしています
お酒は毎晩飲みます
客観的データ(O情報)
身長168cm、体重78kg、BMI 27.7と肥満
体脂肪率35.2%
血糖値385mg/dL、HbA1c 9.2%
総コレステロール215mg/dL、中性脂肪268mg/dL
食事:1日3食不規則、外食多い
間食あり
飲酒:日本酒1合またはビール350mL毎晩
入院後:糖尿病食1600kcal
アセスメントの要点
61歳の成人期後期であり、管理職として責任ある立場でストレスが大きいと考えられます。
BMI 27.7、体脂肪率35.2%と明らかな肥満状態です。
血糖値とHbA1cが著しく高値で、血糖コントロールが不良です。
脂質異常症も認められ、動脈硬化のリスクが高い状態です。
肥満によりインスリン抵抗性が増強しています。
高血糖状態が持続することで糖毒性の状態にあり、血糖値が下がりにくい悪循環です。
外食時や行事時の食事量・アルコール量の調整が必要です。
栄養指導を受ける機会が少なく、食事療法の知識が不足しています。
Alb 3.0g/dLとやや低値で、適切な栄養バランスが取れていない可能性があります。
3. あらゆる排泄経路から排泄する
主観的データ(S情報)
特に排泄に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
尿量:1800〜2000mL/日
尿蛋白(+〜2+)
BUN 18mg/dL、Cre 0.85mg/dL(正常範囲)
eGFR 52mL/分(腎機能低下)
糖尿病腎症3期
排便:1回/日
アセスメントの要点
尿量は正常範囲内ですが、尿蛋白陽性です。
糖尿病腎症3期(顕性腎症期)であり、腎機能が低下しています。
eGFRの低下が認められ、腎保護のための生活習慣改善が重要です。
BUN、Creは正常範囲内ですが、今後の腎機能悪化に注意が必要です。
排便は規則的で、便秘などの問題は見られていません。
4. 身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する
主観的データ(S情報)
最近は登山やゴルフの回数が減っています
月1回はゴルフに行きます
客観的データ(O情報)
BMI 27.7と肥満
糖尿病神経障害あり
陳旧性脳梗塞あり(後遺症なし)
血圧145/88mmHg
運動習慣:ゴルフ月1回、老人会行事隔月1回
最近は運動頻度減少
脈波伝播速度高値、動脈硬化の進行あり
アセスメントの要点
糖尿病神経障害により、足の感覚低下と歩行時のバランス低下のリスクがあります。
肥満により関節への負担が増加し、転倒リスクが高まっています。
陳旧性脳梗塞の既往がありますが、後遺症はなく認知機能も正常です。
もともとゴルフや歩こう会への参加など運動習慣がありましたが、最近は頻度が減少しています。
運動療法は血糖コントロール改善に有効であり、運動習慣の再開が重要です。
動脈硬化が進行しており、循環器系合併症のリスクが高い状態です。
5. 睡眠と休息をとる
主観的データ(S情報)
退院しても病院通いばかりになると思うと気が重いです
インスリンを使うようになると困ります
客観的データ(O情報)
入院前:起床7時、就寝23〜24時
飲酒:毎晩
肥満あり
入院後:治療への不安表出
アセスメントの要点
飲酒により睡眠の質が低下している可能性があります。
アルコールは入眠を早めますが、中途覚醒を増加させ、質の良い睡眠を妨げます。
肥満により閉塞性睡眠時無呼吸症候群のリスクがあります。
インスリン療法への不安が睡眠に影響している可能性があります。
入院前は睡眠に関する訴えはなく、現時点で明らかな睡眠障害は認められていません。
6. 適切な衣類を選び、着脱する
主観的データ(S情報)
特に更衣に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
糖尿病神経障害あり
更衣動作自立
アセスメントの要点
糖尿病神経障害により、足の知覚が低下しています。
足に合わない靴を履くと靴擦れができ、気づかぬうちに皮膚潰瘍や壊疽に進行するリスクがあります。
現時点で更衣動作は自立していますが、神経障害の進行により手指のしびれが増強すると更衣困難となる可能性があります。
適切な靴選びと靴下着用の指導が必要です。
7. 衣類の調節と環境の調整により、体温を生理的範囲内に維持する
主観的データ(S情報)
特に体温調節に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
体温36.0〜36.7℃(正常範囲)
血圧145/88mmHg
糖尿病腎症3期
アセスメントの要点
体温は正常範囲内です。
糖尿病により免疫機能が低下し、感染症のリスクが高まっています。
血圧管理が重要であり、130/80mmHg以下に保つ必要があります。
動脈硬化が進行しており、循環器系の管理が重要です。
現時点で体温調節に関する問題はありません。
8. 身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
主観的データ(S情報)
特に清潔に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
両足趾に白癬あり
両踵の皮膚乾燥あり
血糖値385mg/dL、HbA1c 9.2%
糖尿病神経障害あり
アセスメントの要点
糖尿病患者の皮膚は乾燥しやすく、微小な傷や亀裂が生じやすい状態です。
両足趾に白癬があり、皮膚感染のリスクが高まっています。
踵の皮膚が乾燥しており、亀裂から感染を起こす可能性があります。
糖尿病神経障害により感覚が低下し、気づかぬうちに傷ができる危険があります。
血糖コントロール不良により易感染状態にあります。
足の清潔保持とフットケアが重要です。
9. 環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
主観的データ(S情報)
特に環境に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
特記すべき情報なし
アセスメントの要点
環境に関する特別な問題は見られていません。
現時点で看護問題はありません。
10. 自分の感情、欲求、恐怖あるいは気分を表現して他者とコミュニケーションをもつ
主観的データ(S情報)
若い頃は健康なんて気にしなかったけど、健康が一番だと思うようになりました
退院しても病院通いばかりになると思うと気が重いです
インスリンを使うようになると困ります
注射を持ち歩くのは格好悪いです
食べるたびに注射するのも、一緒に食事する人に気を使います
血糖値って何を示しているのでしょうか
客観的データ(O情報)
陳旧性脳梗塞あり(後遺症なし、認知機能正常)
老人会行事に隔月参加
月1回仕事仲間とゴルフ
管理職として責任ある立場
アセスメントの要点
もともと社交的であり、コミュニケーションは良好です。
自分の感情を看護師に適切に表現できています。
インスリン療法に対する不安や疑問を率直に表出しています。
インスリン注射への先入観や誤解があります。
将来の生活への不安を抱いています。
糖尿病に関する知識が不足しており、疾患理解が不十分です。
11. 自分の信仰に従って礼拝する
主観的データ(S情報)
退院しても病院通いばかりになると気が重いです
孫もかわいいです
客観的データ(O情報)
老人会の行事参加
管理職として責任ある立場
ゴルフなどの趣味活動
孫との交流
アセスメントの要点
信仰に関する直接的な情報はありません。
J氏の価値観として、健康、家族、仕事、社会的つながりを重視していることが分かります。
健康への不安や治療方法への懸念が心理的負担となっています。
新しい治療法への移行が日常生活や社会活動に影響を及ぼす不安があります。
価値観を尊重しながら、適切な支援と教育が必要です。
12. 達成感をもたらすような仕事をする
主観的データ(S情報)
仕事には体力も必要なので、それなりに気を使ってきました
いきなりインスリンと言われても納得できません
客観的データ(O情報)
管理職として会社で重要な役割
老人会行事に参加
月1回ゴルフ
孫との交流
アセスメントの要点
管理職として社会的役割を十分に遂行しています。
健康への価値観が高まっています。
インスリン療法が社会的活動の障壁になることへの懸念があります。
老人会やゴルフなどの活動中の注射実施への抵抗感があります。
社会的役割の遂行に対する不安を抱いています。
13. 遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
主観的データ(S情報)
特に気分転換に関する訴えなし
客観的データ(O情報)
趣味:登山、ゴルフ
老人会行事参加
孫との交流
最近は運動頻度減少
アセスメントの要点
もともと登山やゴルフなどの趣味があります。
老人会行事や孫との交流など、気分転換の機会があります。
最近は活動頻度が減少していますが、入院前は気分転換ができていました。
入院後の気分転換に関する情報は不足しています。
14. “正常”な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
主観的データ(S情報)
血糖値って何を示しているのでしょうか
インスリンについてよく分かりません
客観的データ(O情報)
45歳時に糖尿病診断
診断時に教育入院経験あり
外来糖尿病教室の参加は数回のみ
仕事が忙しく教育機会少ない
血糖コントロール悪化
今回、教育とインスリン導入目的で入院
アセスメントの要点
45歳時の教育入院以来、16年間知識がアップデートされていません。
仕事中心の生活で、外来教育への参加が困難でした。
糖尿病に関する知識が不足しており、疾患理解が不十分です。
血糖値の意味やインスリン療法の必要性を理解していません。
インスリン療法への誤解や先入観があります。
健康への意識は高まっていますが、具体的な知識が不足しています。
看護問題の優先順位と看護計画の立案
ヘンダーソンの14の基本的欲求でアセスメントを行った結果、以下の看護問題が抽出されます。
優先度の高い看護問題
糖尿病に関する知識不足により、必要な治療(インスリン療法)が受け入れられない可能性がある
過剰な栄養摂取による血糖コントロール不良
糖尿病神経障害と肥満による転倒・転落リスク
看護目標の例
2週間以内に、自分の病態を理解し、インスリン療法の必要性について正しい認識を持つことができる
退院時までに、適切な食事療法を理解し実践できる
入院中、転倒・転落せず安全に過ごすことができる
看護計画(OP・TP・EP)の例
OP:血糖値の変化、病態・治療に対する認識、インスリン療法に対する言動・表情、治療に対する考え、セルフモニタリングの状況、家族の言動・表情の観察
TP:血糖測定の介助、フットケアなど自分の身体を大切に思える関わり、治療への介助、糖尿病教室での他患者との交流機会の提供、患者・家族を尊重する姿勢
EP:糖尿病の治療についての説明、薬物療法の内容説明、患者の誤解への対応、病態と治療の関係の説明、治療への不安への対応、家族への説明、糖尿病教室への参加促進
まとめ|糖尿病看護過程のポイント
糖尿病患者の看護過程をヘンダーソンで展開する際は、血糖コントロール、合併症の管理、生活習慣の改善、疾患理解と治療受容を総合的にアセスメントすることが重要です。
本事例のJ氏のように、知識不足により治療への抵抗感がある患者では、疾患教育、インスリン療法への誤解の修正、心理的支援が重要な看護の柱となります。
看護学生の皆さんは、このような架空事例を参考にしながら、実際の患者さんの個別性を大切にした看護過程を展開してください。
糖尿病看護は急性期の血糖管理から慢性期の自己管理支援まで継続的な視点が必要であり、患者さんが疾患を理解し、前向きに治療に取り組めるよう支援することが看護の重要な役割となります。








