看護学生や新人看護師にとって急性期患者の看護記録作成は大きな課題です。
特に術後患者のアセスメントでは膨大な情報を整理し、優先順位をつけて看護問題を抽出する必要があります。
本記事では胃がん術後患者の実例を用いて、急性期看護記録の書き方を詳しく解説します。
急性期看護記録の全体構成
急性期看護記録は系統的な構成で作成します。
アセスメント、看護問題リスト、長期目標、短期目標という流れで展開していきます。
アセスメントはゴードンの11の機能的健康パターンに沿って情報を整理します。
各パターンごとにアセスメントの視点を明確にすることが重要です。
視点を持たずに情報収集すると、必要な情報が抜け落ちたり、不要な情報に時間を費やしたりします。
視点の根拠も明記することで、なぜその項目を観察するのかという理論的背景が理解できます。
栄養代謝パターンのアセスメント視点
栄養代謝パターンでは10項目のアセスメント視点があります。
栄養状態の低下をきたしていないか、血糖値は適切であるか、感染はないか、貧血の危険性はないか、出血の危険性はないか、皮膚障害はないか、体温に問題はないか、水分出納バランスの過不足はないか、電解質バランスは適切か、肝機能に問題はないかという項目です。
それぞれの視点には明確な根拠があります。
例えば栄養状態の低下について、検査が続くと疲労や苦痛を訴え、検査は禁食で行うことが多く体力が消耗するという理由があります。
手術侵襲によって蛋白異化亢進がおこり低栄養状態になりやすいという病態生理も根拠となります。
低栄養状態では術後出血、感染、縫合不全、創傷治癒遅延、褥瘡のリスクが高まるため観察が必要なのです。
血糖値については、高血糖の場合は易感染状態や創部治癒遅延のリスクが上がり、手術侵襲によって高血糖になる外科的糖尿という現象が起こるため確認が必要です。
感染については、手術創やドレナージ術による皮膚粘膜の断裂に伴い感染や縫合不全のリスクがあるため観察します。
出血については、手術は広範なリンパ節郭清や合併切除が多いため後出血の危険性が高く、大出血があれば患者の全身状態は悪くなりショック状態に陥ってしまうため注意が必要です。
排泄パターンのアセスメント展開
排泄パターンでは3つの視点でアセスメントします。
排尿排便の状態は適切か、ドレーン排液に問題はないか、腸管麻痺回復遅延の危険性はないかという項目です。
排尿排便の視点の根拠として、術後は一時的に尿道留置カテーテルを挿入して排泄経路を変更することがあります。
硬膜外カテーテルからの鎮痛薬投与により尿閉のリスクがあります。
胃がんによって術前から消化機能が低下している恐れがあり、術後は腸管運動の抑制やダンピング症候群によって排便のパターンや性状に変化が現れる可能性があるのです。
ドレーン排液については、排液から感染や術後合併症の有無などを推測でき、循環血液量を推測できます。
術操作により膵液漏が生じると周辺組織を溶かし出血を引き起こす恐れがあるため観察が必要です。
腸管麻痺回復遅延は放置するとショック状態に陥る可能性があります。
手術後は腸管が蠕動不全の状態にあり、ガスや消化液が停滞するとともに循環障害をきたし腸管が膨満するようになります。
腹部膨満、嘔吐、呼吸困難、脱水、尿量減少などの症状を呈しショック状態に陥るため、これらの症状の出現を早期に発見する必要があるのです。
活動運動パターンの詳細なアセスメント
活動運動パターンは5つの視点でアセスメントします。
呼吸機能は適切か、腎機能は適切か、循環機能は適切か、ADLは自立しているか、深部静脈血栓は生じていないかという項目です。
呼吸機能については具体的な患者情報とアセスメントが記載されます。
Sデータとして、呼吸の訓練の器械みたいなのを家でやるように言われましたが思いっきり吐いてもあがらなくて、疲れるし苦しいから数回しかやらなかったですという訴えがあります。
Oデータとして、喫煙20本を1日に20歳から現在まで続けている、術後の呼吸数は16回で酸素飽和度は98パーセント、PaO2が64トルと低下、呼吸音は全体的に弱く少量ずつ白色粘稠痰を排痰という情報が集められます。
アセスメントでは、手術は全身麻酔下であり一時的に呼吸機能の低下が考えられると分析します。
術後は創部痛によって肺活量が減少し、臥床時間が長くなると横隔膜の機能低下により気道内分泌物が貯留し呼吸器合併症を起こしやすくなります。
長年の喫煙歴があり閉塞性換気障害によって呼吸機能の低下がもともとあったことが指摘されます。
換気障害は咳嗽時の創部痛によって効果的な咳嗽が阻害されていることによっても助長されているのです。
このまま呼吸機能の低下が続くと無気肺や肺炎のリスクが高まり、長期にわたる呼吸機能の低下が早期離床を遅らせ回復の遅延を招く可能性があると予測します。
腎機能と循環機能のアセスメント
腎機能については術後の尿量は900ミリリットルを15時間で正常範囲内です。
血清クレアチニンは0.9で正常値内ですが、BUNは23と軽度の上昇が見られます。
これは術中および術後の腎血流低下に起因する可能性があると分析します。
eGFRは59.6で軽度の腎機能低下が考えられます。
このまま腎血流の低下が続くと急性腎障害のリスクがあり、長期間にわたる腎機能の低下は慢性腎不全への移行や透析の必要性が生じる可能性があると予測します。
循環機能については、術後の脈拍は80回で正常範囲内、血圧は110/75mmHgと安定、心電図モニターではサイナスリズムが確認されています。
ただし手術により組織の損傷と筋肉の攣縮反射が起こり痛みが生じています。
術後は疼痛がNRS9/10と強めの痛みを感じており、動くと痛みが増して辛いという思いがあり今後スムーズに離床が進まないことが予測されます。
臥床が続くことで筋肉の低下や同一体位を保持することから循環障害がおこり下肢静脈血栓を形成することがあると警告します。
深部静脈血栓のリスク評価
深部静脈血栓については詳細な情報収集とアセスメントが必要です。
Oデータとして、術後は弾性ストッキングとAVインパルスを装着、Dダイマー値は1.8μg/mL、下肢の腫脹やホーマンズ徴候はなしという情報があります。
アセスメントでは、患者には弾性ストッキングとAVインパルスが装着されているが血液凝固能の亢進や静脈壁の損傷により深部静脈血栓のリスクがあると分析します。
術後のDダイマー値は1.8で正常値0.5以下と比べて上昇しており血栓形成の可能性が考えられます。
下肢の腫脹やホーマンズ徴候は見られないが静脈血栓の早期徴候に注意が必要です。
このまま深部静脈血栓が形成されると肺塞栓症のリスクが高まり、特に術後の安静臥床や筋弛緩薬の使用により血液のうっ滞が進行しやすいのです。
深部静脈血栓が進行すると肺塞栓症による急性の呼吸不全や心停止のリスクが生じるため早期の予防と観察が重要であると結論づけます。
睡眠休息パターンのアセスメント
睡眠休息パターンでは睡眠習慣状態は適切かという視点でアセスメントします。
Sデータとして、睡眠薬をもらったらよく眠れました、痛くて、朝方には痛みと鼻の管が気になってあまり眠れなかったですという訴えがあります。
Oデータとして、入院前の睡眠時間は0時から6時で中途覚醒はない、多数のチューブ類が挿入されている、疼痛がNRS9/10という情報が集められます。
アセスメントでは、入院前の睡眠時間は中途覚醒はないが6時間であり標準的な成人の推奨睡眠時間である6.5から7.5時間には達していないと指摘します。
患者にはもともと慢性的な睡眠不足があり日中の倦怠感や集中力の低下、免疫機能の低下などがあった可能性があります。
術後は創部痛やチューブ類による不快感が睡眠に大きな影響を与えており、夜間2時に痛みを訴え疼痛時薬を使用しています。
今後も睡眠不足が続くことで免疫力の低下やそれに伴う感染のリスク、創部の治癒遅延が予測されます。
また日中の眠気や注意力の低下により入院中の事故のリスクや活動性の低下による離床の遅延も予測されると分析します。
認知知覚パターンと疼痛アセスメント
認知知覚パターンでは3つの視点でアセスメントします。
認知機能は適切か、感覚機能は適切か、不快症状はどうかという項目です。
認知機能については、患者は50歳であり発言内容と行動から判断すると認知機能は現在のところ適切であると考えられます。
手術の説明を理解し自分の病状や治療内容を適切に把握していることが確認できます。
感覚機能については、入院前は近視で眼鏡を使用しているが眼鏡を使用すれば生活に支障はありません。
術後は強い痛みを感じていることから痛覚は正常に機能しています。
不快症状として患者は手術後NRS9/10という強い痛みが生じています。
経鼻胃管や創部の痛み不快感の訴えもあります。
このまま耐えがたい痛みが続くと患者の気力は失せ治りたいという意思が妨げられるだけでなく不安や恐怖を感じるおそれがあります。
痛みが持続することで心因性の疼痛も加わり術後の離床や意欲の減退を招くリスクがあると分析します。
看護問題リストの作成方法
アセスメントが終わったら看護問題リストを作成します。
看護問題はPES形式で記載します。
PはProblem問題、EはEtiology原因、SはSign徴候を表します。
例えば急性疼痛であれば、P急性疼痛、E手術による組織損傷、SNRS9/10の痛みと夜間の睡眠不足という形式です。
栄養低下に伴う創部治癒遅延感染縫合不全のリスクであれば、Pリスク状態、E術前後の禁飲食や術後のタンパク異化亢進、S術後のTP5.6でAlb2.8という記載になります。
この事例では8つの看護問題が抽出されています。
急性疼痛、非効果的気道浄化、不眠、栄養低下のリスク、活動耐性低下、深部静脈血栓症のリスク、便秘リスク、ダンピング症候群発生のリスクです。
看護問題の優先順位決定
複数の看護問題が抽出されたら優先順位を決定します。
優先順位決定の理由を明確に記載することが重要です。
この事例では急性疼痛が最優先とされています。
理由として、急性疼痛は生理的なストレス反応を引き起こし心拍数や血圧の上昇、免疫機能の低下など全身にわたる悪影響を及ぼすからです。
強い痛みは患者の活動を制限しリハビリテーションの遅延や合併症のリスクを高めるため最優先で管理する必要があります。
また急性疼痛が解決すれば睡眠の問題も解決するため全身状態の回復につながると考え優先順位1位としたと説明されています。
次に非効果的気道浄化が2位です。
術後の患者は気管挿管や麻酔の影響で呼吸機能が低下しやすく、呼吸器管理が不十分であれば肺炎や無気肺などの重篤な呼吸器合併症を引き起こす可能性が高いためです。
気道浄化を効果的に行うことが患者の生命維持において重要と考え優先順位2位としたと記載されています。
目標設定の具体的方法
看護問題が決まったら目標を設定します。
長期目標は術後14日目までに疼痛がNRS0から2までに軽減するという具体的な数値目標です。
短期目標は段階的に設定します。
術後8日目までに安静時の疼痛が軽減あるいは消失したことを示す言葉が聞かれる、術後10日目までに疼痛が軽減あるいは消失し夜間良眠できる、術後12日目までに表情が明るくなる、術後14日目までに痛みによる活動制限がなくなるという4つの短期目標が設定されています。
目標は測定可能で期限が明確でなければなりません。
曖昧な目標では評価ができず看護計画の修正も困難になります。
患者の言葉で聞かれる、良眠できる、表情が明るくなる、活動制限がなくなるという観察可能な指標を用いることが重要です。
急性期看護記録作成のポイント
効果的な急性期看護記録作成にはいくつかのポイントがあります。
アセスメントの視点を明確にし、その根拠を理論的に説明することが大切です。
なぜその項目を観察するのか、どのような病態生理が背景にあるのかを理解することで的確な情報収集ができます。
主観的データと客観的データを明確に区別して記載します。
患者の訴えはそのままの言葉で記録し、観察や測定結果は数値で示します。
アセスメントでは情報を統合して分析し、今後の予測まで含めて記載することが重要です。
現在の状態だけでなく、このまま続くとどうなるかという予測が看護介入の方向性を決めます。
看護問題はPES形式で明確に記載し、優先順位決定の理由を論理的に説明します。
目標は測定可能で期限が明確なものに設定し、評価できるようにします。
まとめ
急性期看護記録は系統的な思考プロセスを可視化したものです。
アセスメントの視点を持ち、根拠に基づいて情報を収集し、分析することで患者の全体像が見えてきます。
本記事で紹介した実例を参考に自分が受け持つ患者の看護記録を作成してみてください。
最初は時間がかかりますが繰り返し実践することで思考プロセスが身につき効率的に記録を作成できるようになります。
急性期患者の看護記録作成技術を磨くことで質の高い看護実践につながります。
患者一人ひとりの状態を的確に把握し適切な看護を提供するために記録作成のスキルを高め続けていきましょう。








