がん患者の看護過程作成に悩んでいる看護学生の皆さん、こんにちは。
ゴードンの11の機能的健康パターンを使ったがん患者の看護過程は、手術侵襲による身体的変化、術後合併症のリスク、心理的影響、退院後の生活変容など、多面的なアセスメントが求められるため、多くの学生が難しく感じるテーマです。
本記事では、進行胃がんで胃全摘術を受けた60代男性の架空事例を用いて、ゴードンの各パターン別にアセスメントのポイントと看護問題の導き方を具体的に解説します。
この記事を読むことで、がん患者の全体像把握から看護計画立案までの流れが理解でき、実習記録作成の参考になるはずです。
事例紹介|進行胃がんで胃全摘術を受けた60代男性
患者プロフィール
G氏、62歳男性、会社員(製造業管理職)
診断名:進行胃がん(ステージⅡA)、高血圧症
既往歴:55歳で高血圧と診断、内服治療中
家族構成:妻(58歳)、長男(32歳・既婚・別居)、長女(28歳・未婚・別居)
入院の経緯
3か月前から心窩部痛があり、市販の胃薬を服用していましたが改善せず、食欲低下と体重減少(5kg)が見られたため受診しました。
上部消化管内視鏡検査で胃体部に約4cm大の腫瘍を認め、生検の結果、進行胃がんと診断されました。
CT・MRI検査でリンパ節転移は認めず、遠隔転移もないため、根治手術の適応となりました。
胃全摘術(ルーワイ法)を全身麻酔下で施行する予定です。
術前データ
身長168cm、体重58kg(普段63kg)、BMI 20.5
意識レベル:清明
血圧145/88mmHg、脈拍78回/分、体温36.6℃
検査データ(術前)
WBC 6,800/μL、RBC 420万/μL、Hb 13.5g/dL
TP 6.5g/dL、Alb 3.3g/dL
BUN 16mg/dL、Cre 0.8mg/dL
肺機能検査:%VC 98%、FEV1.0% 72%
生活習慣
喫煙:20歳から1日30本、診断後20本に減量したが禁煙できず
飲酒:週3〜4回、ビール500ml程度
食事:不規則、外食多い、塩分多め
コーヒー:1日5〜6杯
ゴードン11パターン別アセスメントのポイント
健康知覚-健康管理パターン
主観的データ(S情報)
胃の痛みがあったけど、仕事が忙しくて我慢していました
タバコは減らしたけど、やめられませんでした
がんを治すには手術しかないですよね
転移がないだけまだ良かったです
退院したら生活を見直したいです
客観的データ(O情報)
62歳男性、会社員(製造業管理職)
3か月前から心窩部痛あり、市販薬で対処
受診の遅れあり
進行胃がん(ステージⅡA)と診断
胃全摘術(ルーワイ法)施行予定
喫煙歴:40年以上、1日30本→20本に減量
肺機能検査:FEV1.0% 72%と軽度閉塞性障害
高血圧で内服治療中
体重5kg減少
アセスメントの要点
G氏は症状があったにもかかわらず、仕事を優先し受診が遅れました。
これは健康管理意識の低さと、仕事中心の生活を示しています。
長年の喫煙習慣があり、診断後も禁煙に至っていません。
肺機能検査で軽度の閉塞性障害が認められ、術後の呼吸器合併症のリスクが高い状態です。
塩分の多い食事や不規則な生活が胃がん発症の誘因となった可能性があります。
がんの告知を受け入れ、手術を受ける決意はしていますが、退院後の生活変容についての具体的なイメージが不足しています。
疾患や治療に関する知識が不足しており、術後の生活や合併症予防についての教育が必要です。
栄養-代謝パターン
主観的データ(S情報)
最近食欲がなくて、体重が減りました
胃がなくなったら、食事が食べられなくなるのでしょうか
元の生活に戻れる気がしません
客観的データ(O情報)
身長168cm、体重58kg(普段63kg)、5kg減少
BMI 20.5とやせ傾向
TP 6.5g/dL、Alb 3.3g/dLと軽度低栄養
術式:胃全摘術、ルーワイ法(食道空腸吻合)
手術時間:5時間
出血量:350mL(輸血なし)
術後:絶食、点滴管理(1日2000mL)
ドレーン留置あり
アセスメントの要点
5kgの体重減少があり、がんによる栄養吸収障害と食欲低下が原因と考えられます。
総蛋白とアルブミンがやや低値であり、軽度の低栄養状態です。
低栄養は術後の創傷治癒遅延や感染リスクを高めます。
胃全摘により、食物の貯留機能が失われ、消化吸収機能が大きく変化します。
術後はダンピング症候群のリスクがあり、食事方法の大きな変更が必要です。
G氏は早食いの傾向があり、術後も同様の食行動をとるとダンピング症状が出現する可能性があります。
術後7日目頃から経口摂取開始予定ですが、食事量・回数・速度など、新しい食事方法の習得が必要です。
退院後の食生活についての不安が強く、具体的な指導が必要です。
排泄パターン
主観的データ(S情報)
排尿・排便に問題はありません
客観的データ(O情報)
術前:排尿・排便に問題なし
術後:尿道カテーテル留置
術後1日目に尿道カテーテル抜去予定
BUN 16mg/dL、Cre 0.8mg/dL(腎機能正常)
アセスメントの要点
腎機能は正常であり、排泄機能に大きな問題はありません。
術後は一時的に尿道カテーテルが留置されますが、早期に抜去予定です。
術後は腸管麻痺により一時的に腸蠕動が低下しますが、早期離床により回復を促します。
活動-運動パターン
主観的データ(S情報)
術後:動くと傷が痛いので、動きたくないです
動いた方が良いのは分かっていますが
痰を出すのも痛いです
今日は安静にしていたいです
疲れている気がして、寝ていたいです
客観的データ(O情報)
術前:ADL自立、デスクワーク中心
肺機能検査:FEV1.0% 72%(軽度閉塞性障害)
喫煙歴40年以上
術式:胃全摘術、全身麻酔・硬膜外麻酔
手術時間:5時間、仰臥位
術後:SpO2 97%(酸素3L/分投与下)
両下肺野の呼吸音弱い
湿性咳嗽あり、粘稠痰を喀出
深呼吸を促すと創痛で顔をしかめる
弾性ストッキング着用
術後1日目:トイレ歩行のみ、それ以外は臥床
自力で座位・立位可能だが動こうとしない
アセスメントの要点
長年の喫煙歴と肺機能の軽度低下により、術後の呼吸器合併症のリスクが高い状態です。
全身麻酔により気道内分泌物が増加し、喀痰喀出が必要です。
創痛により効果的な咳嗽ができず、気道浄化が困難な状態です。
両下肺野の呼吸音が弱く、無気肺のリスクがあります。
5時間の長時間手術により、深部静脈血栓症のリスクが高まっています。
創痛により離床意欲が低下しており、廃用症候群のリスクがあります。
早期離床は呼吸器合併症予防、腸蠕動回復促進、深部静脈血栓症予防のため重要です。
適切な疼痛コントロールと離床の重要性の理解が必要です。
睡眠-休息パターン
主観的データ(S情報)
術前:病気や手術のことを考えて眠れません
術後:痛みで眠れませんでした
客観的データ(O情報)
術前:不眠の訴えあり
術後:創痛により夜間覚醒頻回
PCA(自己調節鎮痛法)により鎮痛剤投与中
アセスメントの要点
がんの告知と手術への不安により、術前から不眠が見られています。
術後は創痛により睡眠が妨げられています。
睡眠不足は免疫力を低下させ、回復を遅らせる要因となります。
適切な疼痛コントロールと安眠への支援が必要です。
認知-知覚パターン
主観的データ(S情報)
傷の痛みがつらいです
咳をすると傷が痛むので我慢しています
この痛みはいつまで続くのですか
客観的データ(O情報)
意識レベル:清明
見当識良好
理解力・判断力保たれている
術後:創痛あり、NRS 6〜7/10
PCAにより鎮痛剤投与中
追加投与で一時的に疼痛軽減
アセスメントの要点
認知機能は正常であり、コミュニケーションは可能です。
中等度の創痛があり、これが活動や深呼吸を妨げています。
痛みを我慢する傾向があり、適切な疼痛管理の必要性を理解していません。
疼痛時には遠慮せず伝えるよう、教育が必要です。
自己知覚-自己概念パターン
主観的データ(S情報)
術前:まさか自分ががんになるなんて
がんを治すには手術しかないし
転移がないだけまだ良かった
退院したら生活を見直したいです
術後:胃がなくなったら食事が食べられなくなる
元の生活に戻れる気がしません
客観的データ(O情報)
がんの告知を受け、当初はショック
その後、治療に前向きな発言
術後の生活に対する不安の表出
知識不足による不安あり
アセスメントの要点
がんの告知を受け、初めはショックを受けましたが、徐々に受容しつつあります。
手術を受ける決意はできていますが、術後の生活変容に対する不安が強いです。
フィンクの危機モデルでは、承認から適応の段階に移行しつつあると考えられます。
疾患や治療に関する知識不足が不安を増強しています。
適切な情報提供により、新しい生活様式を受け入れられるよう支援が必要です。
役割-関係パターン
主観的データ(S情報)
仕事のことは部下に頼んできました
早く仕事に復帰したいです
妻には心配をかけて申し訳ないです
客観的データ(O情報)
会社員(製造業管理職)
責任ある立場
妻が主なキーパーソン
長男・長女は別居
妻は毎日面会に来ている
経済的問題なし
アセスメントの要点
管理職として責任ある立場にあり、仕事への復帰意欲が強いです。
社会的役割を果たせないことへの焦りや不安があると考えられます。
妻がキーパーソンであり、サポート体制は良好です。
早期の社会復帰を目指すため、段階的なリハビリテーションと生活指導が必要です。
セクシュアリティ-生殖パターン
主観的データ(S情報)
特記すべき訴えなし
客観的データ(O情報)
62歳男性
特記すべき問題なし
アセスメントの要点
セクシュアリティに関する特別な問題は見られていません。
現時点で看護問題はありません。
コーピング-ストレス耐性パターン
主観的データ(S情報)
病気や手術のことを考えると不安です
でも、治すために頑張ります
妻が支えてくれるから大丈夫です
客観的データ(O情報)
がんの告知と手術に対する不安表出
治療に前向きな姿勢もあり
妻への信頼表現
仕事中心の生活からの転換が必要
アセスメントの要点
がんの告知と手術に対する不安がありますが、治療に前向きな姿勢も見られます。
妻への信頼が心理的支えとなっています。
仕事中心の生活から、健康を優先する生活への転換が必要です。
ストレスに対する適応力はある程度保たれています。
価値-信念パターン
主観的データ(S情報)
仕事は大切ですが、まず健康を取り戻したいです
家族のために元気にならないといけません
退院したら生活を見直したいです
客観的データ(O情報)
仕事を重視する価値観
家族を大切にする思い
健康回復への意欲
生活習慣改善への意欲表出
アセスメントの要点
G氏は仕事を重視してきましたが、がんの診断を機に健康の重要性を認識し始めています。
家族のために健康を取り戻したいという思いが、回復への動機づけとなっています。
生活習慣を見直す意欲があり、これを支援することが重要です。
看護問題の優先順位と看護計画の立案
ゴードンの11パターンでアセスメントを行った結果、以下の看護問題が抽出されます。
優先度の高い看護問題
喫煙歴と創痛に関連した非効果的気道浄化
術後合併症と生活変容に関連した不安
胃全摘による消化吸収機能の変化に関連した栄養摂取消費バランス異常リスク状態
看護目標の例
術後3日以内に、効果的な咳嗽により自己喀痰ができる
術後1週間以内に、術後の生活について理解し、不安が軽減する
退院時までに、新しい食事方法を理解し実践できる
看護計画(OP・TP・EP)の例
OP:呼吸状態、SpO2、呼吸音、咳嗽の状態、喀痰の性状と量、疼痛の程度、バイタルサイン、ドレーン排液、創部の状態、不安の程度、理解度、栄養状態の観察
TP:適切な疼痛コントロール、呼吸理学療法の実施、体位ドレナージ、水分補給、早期離床の促進、安楽な体位の工夫、傾聴と精神的支援
EP:咳嗽・喀痰の重要性の説明、疼痛時の対処方法の説明、早期離床の必要性の説明、疾患と治療についての説明、ダンピング症候群と予防方法の説明、新しい食事方法の指導、禁煙の重要性の説明
まとめ|がん看護過程のポイント
がん患者の看護過程をゴードンで展開する際は、手術による身体的変化、術後合併症のリスク、心理的影響、退院後の生活変容を総合的にアセスメントすることが重要です。
本事例のG氏のように、胃全摘術を受けた患者では、呼吸器合併症の予防、適切な疼痛管理、新しい食事方法の習得、心理的支援が重要な看護の柱となります。
看護学生の皆さんは、このような架空事例を参考にしながら、実際の患者さんの個別性を大切にした看護過程を展開してください。
がん看護は急性期の術後管理から慢性期の生活指導まで継続的な視点が必要であり、患者さんが新しい生活様式を受け入れ、質の高い生活を送れるよう支援することが看護の重要な役割となります。








