脳梗塞患者の看護過程作成に悩んでいる看護学生の皆さん、こんにちは。
ヘンダーソンの14の基本的欲求を使った脳梗塞の看護過程は、意識状態の観察、麻痺の評価、嚥下障害、高次脳機能障害など、多面的なアセスメントが求められるため、多くの学生が難しく感じるテーマです。
本記事では、心原性脳塞栓症で入院した70代男性の架空事例を用いて、ヘンダーソンの各欲求別にアセスメントのポイントと看護問題の導き方を具体的に解説します。
この記事を読むことで、脳梗塞患者の全体像把握から看護計画立案までの流れが理解でき、実習記録作成の参考になるはずです。
事例紹介|心原性脳塞栓症で入院した70代男性
患者プロフィール
K氏、73歳男性、無職(元会社員)
診断名:左中大脳動脈領域の脳梗塞(心原性脳塞栓症)、心房細動
既往歴:68歳時に心房細動を指摘されたが未治療
家族構成:妻(70歳)と二人暮らし、長女夫婦・孫は近隣在住
発症の経緯
自宅トイレで意識消失、右上下肢に力が入らず倒れているところを妻が発見しました。
救急搬送され、頭部MRIで左中大脳動脈領域の脳梗塞と診断されました。
発症から4時間以内であったため、血栓溶解療法を実施しました。
入院時データ(入院4日目の状態)
意識レベル:JCS I-1(刺激で覚醒)
見当識障害あり
血圧152/86mmHg、脈拍80回/分
SpO2 96%(室内気)
神経学的所見
右上下肢不全麻痺(MMT 4)
右顔面麻痺
構音障害、運動性失語
右半側空間無視
嚥下障害
巧緻動作障害
検査データ
心電図:発作性心房細動
CHADS2スコア:3点(高リスク)
頭部MRI:左中大脳動脈領域に梗塞巣
治療内容
抗凝固療法(ヘパリン)
脳保護療法(エダラボン)
抗浮腫療法(グリセリン)
安静度:付き添い歩行
ヘンダーソン14の基本的欲求別アセスメントのポイント
1. 正常に呼吸する・体温・循環
主観的データ(S情報)
大丈夫です(構音障害あり)
客観的データ(O情報)
呼吸数16回/分、規則的
SpO2 96%(室内気)
呼吸困難感なし
体温36.5℃
血圧152/86mmHg
脈拍80回/分、規則的
心電図モニター:発作性心房細動あり
足背動脈触知良好、左右差なし
アセスメントの要点
【呼吸】現在、呼吸状態は正常範囲内で呼吸困難もなく、ニードは充足しています。
しかし、脳浮腫の進行、梗塞部位の拡大、再梗塞により、意識状態や呼吸中枢に影響を及ぼす危険性があります。
継続的なSpO2モニタリングと呼吸状態の観察が必要です。
【体温】体温は正常範囲内であり、ニードは充足しています。
ただし、脳梗塞による体温調節中枢への影響の可能性があり、継続的な観察が必要です。
【循環】血圧は150〜160mmHgで安定しており、脳血流は保たれていると考えられます。
心房細動の既往があり、CHADS2スコア3点とリスクが高い状態です。
心電図モニターで発作性心房細動が認められており、心房の収縮不全による血行動態の低下、心拍出量減少のリスクがあります。
これにより血圧低下、脳血流低下を招く可能性があり、活動時は血圧変動に注意が必要です。
2. 適切に飲食する
主観的データ(S情報)
特に食事に関する明確な訴えなし(失語あり)
客観的データ(O情報)
常食1600kcal、摂取量7〜8割
輸液300kcal/日
推定摂取エネルギー:1420〜1580kcal/日
経口水分量500〜800mL/日、輸液1000mL/日
BMI 22.2、TP 6.8g/dL、Alb 4.2g/dL
咀嚼・嚥下に時間を要する
舌苔あり
右半側空間無視により右側の食べ物を残す
流涎あり
アセスメントの要点
【栄養状態】BMI、TP、Albは正常範囲内で、現時点で栄養状態に大きな問題はありません。
しかし、70歳以上男性の推定エネルギー必要量1850kcalより少なく、長期的には栄養不足のリスクがあります。
咀嚼・嚥下に時間がかかることによる食事意欲の低下、舌苔による味覚低下、活動量低下、病院食への不慣れなどにより、今後さらに摂取量が減少する可能性があります。
【摂食・嚥下障害】右半側空間無視、顔面神経麻痺、舌の偏位などにより、摂食の5期モデル(先行期、準備期、口腔期、咽頭期、食道期)全てに問題があります。
嚥下反射が低下しており、誤嚥や窒息のリスクが高い状態です。
トロミ食の使用や食事姿勢の工夫など、誤嚥予防の対策が必要です。
3. あらゆる排泄経路から排泄する
主観的データ(S情報)
一人でトイレに行きたいです
客観的データ(O情報)
排便:1回/2日、やや硬便
排尿:正常、尿意あり、残尿感なし
電解質、腎機能データ正常
推定In 1500〜1800mL/日
推定Out 1400mL/日
安静度:付き添い歩行
ナースコール使用可能
アセスメントの要点
【排便】自然排便があり、腸蠕動は良好です。
やや硬便であり、食事・水分量の低下により今後さらに硬化する可能性があります。
抗凝固療法中であり、排便時の怒責による血圧上昇は脳出血や出血性梗塞のリスクとなります。
下剤使用による便秘予防と、無理な怒責を避ける指導が必要です。
【排尿】尿意、残尿感なく、排尿機能は正常です。
電解質異常や腎機能低下もなく、水分出納バランスも問題ありません。
【排泄行動の安全性】ナースコールを押すことができ、移動の必要性を理解しています。
しかし、「一人で行きたい」という発言から、介助に対する心理的負担(自尊心、自立への思い)があります。
右半側空間無視により、右側の障害物に気づかず転倒するリスクがあります。
単独行動を避けるよう指導し、転倒予防対策が必要です。
4. 身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する
主観的データ(S情報)
リハビリはめんどくさい、寝ていたいです
客観的データ(O情報)
左側(健側):MMT 5、関節可動域正常
右側(患側):上下肢MMT 4、軽度不全麻痺
バレー徴候陽性(15秒で下降)
肩・骨盤位置の右側傾きあり
右半側空間無視、左共同偏視あり
リハビリは促されて実施
アセスメントの要点
右側に軽度不全麻痺が残存しており、神経系・筋骨格系に異常があります。
MMT 4では強い衝撃への防御が困難で、転倒時に受傷するリスクが高い状態です。
右半側空間無視と眼球運動障害により、障害物の察知・回避ができず、転倒・外傷のリスクが高まっています。
リハビリに対して非意欲的であり、活動量低下が続くと精神的ストレス、認知機能低下、筋力低下、ADL低下につながります。
早期離床とリハビリテーションの継続が重要です。
5. 睡眠と休息をとる
主観的データ(S情報)
不眠の訴えなし
客観的データ(O情報)
夜間睡眠:21時〜7時(約10時間)
中途覚醒1〜2回
日中:30分程度の昼寝を繰り返す
アセスメントの要点
総睡眠時間は十分確保されており、不眠の訴えもありません。
しかし、日中の睡眠が多く、不規則な覚醒と睡眠が見られます。
このような不規則な睡眠パターンは、倦怠感、疲労感、意欲・活動低下につながり、精神的ストレスから認知機能低下を招く可能性があります。
日中の活動を促し、睡眠リズムを整える必要があります。
6. 適切な衣類を選び、着脱する
主観的データ(S情報)
足が寒いです、布団をかけてください
客観的データ(O情報)
更衣動作:見守りで可能
ボタンを留める、紐を結ぶ動作に時間がかかる
ボタンのはずれ、右側の上衣の乱れあり
靴のかかとを踏んだ状態
衣服への興味・関心低い
弾性ストッキング着用中
アセスメントの要点
右側の運動機能低下がありますが、見守りで更衣可能です。
巧緻動作障害があり、ボタンや紐の操作に時間がかかります。
衣服の乱れや靴の履き方から、衣服への興味・関心が低い状態、または注意障害の可能性があります。
適切な衣服を選択できないことによる皮膚トラブルや転倒・外傷のリスクがあります。
環境と体温の変化を感じ取り、調整を依頼できています。
7. 身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
主観的データ(S情報)
寒いです(清拭時)
客観的データ(O情報)
ブレーデンスケール20点
清拭・洗髪実施
皮膚の湿潤なし、乾燥あり
口腔ケア:セッティングで自己実施可能
口腔内に食物残渣あり、舌苔あり
爪が伸びている
アセスメントの要点
ブレーデンスケール20点で褥瘡リスクは低いですが、意欲低下、臥床時間の延長、皮膚乾燥などにより皮膚トラブルのリスクがあります。
口腔ケアは自己実施できますが、右半側空間無視と右不全麻痺により、口腔内の清潔が十分に保たれていません。
高齢による唾液分泌低下と自浄作用の低下があり、口腔内の汚染が持続すると誤嚥性肺炎のリスクが高まります。
清潔に対して消極的であり、整容・清潔へのニーズが低下しています。
適宜、清拭や口腔ケアの介助が必要です。
8. 環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
主観的データ(S情報)
特に訴えなし
客観的データ(O情報)
オーバーテーブルの汚れ
身の回りの整理整頓できていない
右半側空間無視、左共同偏視あり
注意障害あり
アセスメントの要点
身の回りの物の整理整頓ができず、快適な環境が保たれていません。
右半側空間無視と視野障害により、障害物や危険物の察知・回避ができません。
環境を自身で整備できないことによる外傷や転倒のリスクが高い状態です。
脳梗塞発症4日目であり、抗凝固療法中のため、転倒による出血や再梗塞、脳圧上昇のリスクがあります。
ベッド周囲の環境整備と転倒予防対策が必要です。
9. 他者とコミュニケーションをもつ
主観的データ(S情報)
(発語困難、構音障害あり)
客観的データ(O情報)
見当識障害あり
運動性失語、喚語困難
記憶障害、注意障害
社会的行動障害(意欲低下、情動コントロール不良)
右顔面麻痺、構音障害
自発的な発語少ない
アセスメントの要点
意識障害、高次脳機能障害(運動性失語、喚語困難、記憶障害、注意障害、社会的行動障害)があります。
脳神経障害(右顔面麻痺、構音障害)により、言いたいことが言葉として出ない、うまく話せない、思い出せない状態です。
これにより精神的苦痛、心理的葛藤、欲求不満が生じていると考えられます。
ゆっくり分かりやすい言葉で話しかけられることに対し、自尊心の低下、人格否定、自己概念の崩れを感じている可能性があります。
非言語的コミュニケーション(筆談、ジェスチャー)の活用と、自尊心に配慮した関わりが必要です。
10. 自分の信仰に従って礼拝する・役割・達成感・レクリエーション
主観的データ(S情報)
一人でトイレに行きたいです
客観的データ(O情報)
入院前:妻が身の回りの世話
妻は定期的に面会
長女家族と週末交流
アセスメントの要点
【役割・達成感】入院前から妻に依存的であり、環境整備などの援助を受けることへの抵抗は少ないと考えられます。
しかし、一人でトイレに行きたいという思いと、コミュニケーション困難に対する精神的苦痛、自尊心の低下、自己概念の崩れが生じています。
妻は高齢であり、今後の治療、生活、リハビリ、経済的支援に対する情報やサポートシステムが必要です。
【レクリエーション】入院前は妻との散歩、スポーツ観戦、長女家族との交流が楽しみでした。
入院により制限され、精神的ストレスを生じている可能性があります。
適切なストレス対処ができないと、治療・リハビリ意欲が低下し、入院長期化、筋力低下、ADL低下につながります。
11. 学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
主観的データ(S情報)
退院後も薬は妻が管理してくれます
客観的データ(O情報)
心房細動を指摘されたが未受診
リハビリ非意欲的
環境整備や服薬管理を妻に依存
コンプライアンス低い
アセスメントの要点
心房細動を指摘されたにもかかわらず受診せず、コンプライアンスが低い状態です。
コンプライアンス低下は、疾病理解、健康増進、疾病予防、自己管理の低下につながります。
脳梗塞により見当識障害、記憶障害、視野障害、嚥下障害、遂行機能障害が生じており、今後も転倒・外傷のリスクが高い状態です。
再発予防には血圧コントロール、内服管理、心房細動の治療が必須ですが、これらが適切に守られず、再梗塞のリスクが高まります。
疾患・治療についての指導を理解度に合わせて行い、家族を含めた教育が必要です。
看護問題の優先順位と看護計画の立案
ヘンダーソンの14の基本的欲求でアセスメントを行った結果、以下の看護問題が抽出されます。
優先度の高い看護問題
脳梗塞・心房細動・コンプライアンス低下・抗凝固療法による非効果的脳組織循環リスク状態
脳神経障害による咀嚼・嚥下機能低下に関連した誤嚥リスク状態
注意障害・失認・眼球運動障害・右不全麻痺に関連した転倒転落・身体損傷リスク状態
看護目標の例
1週間以内に、再梗塞を起こすことなく、効果的な脳組織循環を維持できる(収縮期血圧150〜180mmHg)
入院中、誤嚥性肺炎を起こさず安全に食事摂取ができる
入院中、転倒・転落せず安全に過ごすことができる
看護計画(OP・TP・EP)の例
OP:バイタルサイン、意識レベル、瞳孔所見、心電図モニター、麻痺の程度、高次脳機能障害、脳神経障害、嚥下状態、ADL、理解力・認知、検査データ、服薬状況、本人・家族の理解度と不安の観察
TP:異常の早期発見、頭蓋内圧亢進や脳浮腫に対する治療の安全な実施、リハビリ前後の観察とアセスメント、多職種連携、治療薬の副作用観察、循環管理、患者の障害受容への支援、傾聴と尊重した態度、内服管理の支援、排便管理、再梗塞予防のための支援
EP:異常時の報告の説明、血圧・体重測定の説明、服薬方法の説明、副作用出現時の報告の説明、排便観察の説明、便秘予防の説明、再梗塞予防のための管理(食事・血圧・服薬・排便・寒冷刺激回避・適度な活動・睡眠)の説明、早期受診の必要性の説明
まとめ|脳梗塞看護過程のポイント
脳梗塞患者の看護過程をヘンダーソンで展開する際は、意識状態と神経学的所見、麻痺と高次脳機能障害、嚥下障害、転倒リスク、コミュニケーション障害を総合的にアセスメントすることが重要です。
本事例のK氏のように、心房細動による心原性脳塞栓症の患者では、再発予防のための抗凝固療法の管理、リハビリテーションの促進、嚥下障害への対応、転倒予防が重要な看護の柱となります。
看護学生の皆さんは、このような架空事例を参考にしながら、実際の患者さんの個別性を大切にした看護過程を展開してください。
脳梗塞看護は急性期の全身管理から回復期のリハビリテーション、そして再発予防まで継続的な視点が必要であり、患者さんが残存機能を最大限に活用し、可能な限り自立した生活を送れるよう支援することが看護の重要な役割となります。








