はじめに
体温測定は看護師の基本技術の一つであり、患者の健康状態を把握する重要なバイタルサインです。正確な測定方法を身につけることで、患者の異常を早期発見し、適切な看護介入につなげることができます。
この記事では、看護学生や新人看護師の方に向けて、体温測定の目的から具体的な手技、注意点まで詳しく解説します。
体温測定の目的とは?なぜ重要なのか
主な目的
1. 生理的変化の観察 体温の変化を経時的に測定することで、身体の生理的変化を観察し、体温調節機能の状態を把握します。
2. 治療効果の評価
- 発熱時の解熱薬の効果判定
- 冷罨法などの物理的冷却効果の確認
- 低体温からの回復過程の観察
3. 病態把握のための重要指標 体温は脈拍、呼吸、血圧、意識状態とともに重要なバイタルサインです。他のバイタルサインと比較して外的条件や精神状態に左右されにくく、診断・治療・看護の重要な指標となります。
4. 異常の早期発見 発熱の有無と程度、熱型から病状の経過や生理的機能の変化を知り、感染症や炎症などの異常を早期に発見します。
体温の正常値と発熱の分類
正常値の基準
| 体温範囲 | 分類 | 臨床的意義 |
|---|---|---|
| 35.5~36.9℃ | 正常体温 | 健康な状態 |
| 37.0~37.9℃ | 微熱 | 軽度の炎症や感染の可能性 |
| 38.0~38.9℃ | 中等熱 | 明らかな発熱状態 |
| 39.0℃以上 | 高熱 | 重篤な感染や炎症の可能性 |
体温が変動する要因
生理的要因:
- 日内変動(朝低く、夕方高い)
- 年齢(小児は高め、高齢者は低め)
- 性別(女性は月経周期により変動)
- 運動、入浴、食事(測定は30分~1時間空ける)
体温測定の方法|部位別の手技と特徴
1. 腋窩検温(最も一般的な方法)
適応:
- 成人・小児の一般的な体温測定
- 意識清明で協力が得られる患者
手順:
- 準備
- 患者への説明
- 腋窩を閉じた状態で安静臥床
- 水銀体温計の場合:35℃以下であることを確認
- 測定
- 腋窩の中央部に水銀槽を体軸に対し45度の角度で挿入
- 体温計がずれないよう腋窩を密着
- 水銀体温計:10分間測定
- 電子体温計:1分後に予測温測定(小児に有効)
- 記録
- 脈拍、呼吸も同時測定
- 測定値と観察事項をメモ
- 看護記録に記載、体温表に青鉛筆で記入
注意点:
- 腋窩の手術後や炎症がある場合は他部位を選択
- 発汗時はタオルで拭く
- 側臥位では上側で測定
- 片麻痺患者は健側で測定
2. 口腔検温(より正確な中核体温)
適応:
- 腋窩検温が困難な場合
- より正確な体温測定が必要な場合
手順:
- 準備
- 測定前10分間は冷温飲食物を避ける
- 患者への説明と安静臥床
- 測定
- 体温計を舌下に挿入
- 5分間測定(3分前後で最高値到達、より正確には5分必要)
- 口を開けさせ体温計を取り出し
- 後処理
- 消毒綿で水銀部に向けて拭く
- 正しい位置で示度を読む
禁忌・注意:
- 精神障害者、咳嗽、鼻閉患者
- 小児、重症患者、前歯欠損者
- 熱・冷飲食後は避ける
3. 直腸検温(最も正確な中核体温)
適応:
- 他の測定部位が使用困難な場合
- 最も正確な体温測定が必要な場合
手順:
- 準備
- 患者への説明
- 直腸内の便・ガス排出(排便直後は測定しない)
- プライバシー保護(スクリーン・カーテン)
- 測定
- 潤滑剤を使用し体温計を直腸内に挿入
- 看護師が体温計を把持し3分間測定
- 破損や抜け出し防止に注意
- 後処理
- ちり紙、消毒綿で清拭
- 正しい位置で示度読取
禁忌・注意:
- 肛門手術後、炎症、下痢時
- 患者の羞恥心への配慮
- 挿入時は口呼吸指導
- 体温計の確実な把持
発熱時の観察ポイントと随伴症状
37℃以上の場合の観察項目
基本観察:
- 表情、態度などの全身状態
- 他のバイタルサイン(脈拍、呼吸、血圧、SPO2)
- 脱水症状の有無
随伴症状の詳細観察:
循環器系:
- 心拍数・脈拍数の増加
- 血流速度の増加
- 血圧低下
呼吸器系:
- 呼吸数の増加
- 咳、痰の性状
消化器系:
- 食欲不振、悪心、嘔吐
- 便秘、下痢
- 舌苔の有無
泌尿器系:
- 尿量の減少
- 口渇
神経系:
- 頭重感、頭痛、めまい
- 集中力の低下
筋骨格系:
- 腰背部痛、関節痛、筋肉痛
皮膚:
- 熱感、発汗、顔面紅潮
- 皮膚・粘膜の乾燥
- 皮疹、出血斑
発熱の原因アセスメント
感染性発熱:
- 細菌感染:肺炎、尿路感染症、創部感染
- ウイルス感染:インフルエンザ、COVID-19
- 真菌感染:カンジダ、アスペルギルス
非感染性発熱:
- 腫瘍熱:悪性腫瘍による発熱
- 術後吸収熱:手術侵襲による一時的発熱
- 薬剤性発熱:抗生物質、抗がん剤など
- 膠原病:関節リウマチ、SLEなど
検査データとの関連
炎症反応:
- CRP値の上昇
- 白血球数の変化
- 赤沈値の亢進
その他の検査:
- 血液培養
- 尿培養
- 胸部X線
- CT検査
医師への報告とタイミング
緊急報告が必要な場合
- 初回発熱時
- 今まで発熱がなく38.0℃または38.5℃以上
- 医師が発熱の有無を把握していない場合
- 急激な体温上昇
- 短時間での2℃以上の上昇
- 39℃以上の高熱
- 随伴症状が重篤
- 意識レベルの低下
- 呼吸困難
- 血圧低下
報告内容
- 現在の体温値
- 前回測定値との比較
- 熱型(間欠熱、稽留熱、弛張熱)
- 随伴症状
- 使用中の薬剤
- 検査データ
体温計の種類と特徴
水銀体温計
特徴:
- 正確性が高い
- 測定時間が長い(10分)
- 破損のリスク
注意点:
- 使用前に35℃以下の確認
- 破損時の水銀処理に注意
電子体温計
特徴:
- 測定時間が短い(1分程度)
- 予測検温機能
- 安全性が高い
注意点:
- 電池残量の確認
- 定期的な校正
耳式体温計
特徴:
- 数秒で測定可能
- 小児に適している
- 非侵襲的
注意点:
- 正しい挿入角度
- 耳垢による誤差
感染予防と体温計の管理
消毒方法
推奨消毒液:
- 逆性石鹸0.25~0.5%液(30分以上)
- 0.1~0.5%ビビテン液(30分以上)
- 3%クレゾール石鹸液(2時間以上)
管理上の注意点
- 他の物品との衝突防止
- 高温環境を避ける
- 定期的な動作確認
- 適切な保管場所の確保
よくある質問(FAQ)
Q1. 運動後すぐに体温測定しても良いですか?
A1. 運動後は30分~1時間空けてから測定してください。運動により体温が上昇し、正確な測定ができません。
Q2. 左右どちらの腋窩で測定すべきですか?
A2. 左右差があるため、なるべく同一部位で測定することが重要です。片麻痺がある場合は健側を使用します。
Q3. 微熱程度でも医師に報告すべきですか?
A3. 初回発熱や患者の状態変化がある場合は報告が必要です。普段の体温と比較して判断しましょう。
まとめ
体温測定は看護師の基本的な技術でありながら、患者の状態を把握する重要な手段です。正確な測定方法を身につけ、適切な観察と評価を行うことで、患者の安全確保と早期の異常発見につなげることができます。
重要ポイント:
- 測定部位と方法の適切な選択
- 正確な手技の実施
- 随伴症状の詳細な観察
- 適切なタイミングでの医師への報告
- 感染予防の徹底
日々の看護実践において、これらのポイントを意識して体温測定を行い、質の高い看護を提供していきましょう。









