はじめに
看護学生の皆さん、こんにちは。
ゴードン看護過程の「活動-運動パターン」は、患者さんの健康状態を総合的に評価する上で非常に重要な要素です。
このパターンを適切に評価することで、患者さんの身体機能の現状を正確に把握し、個別性の高い看護計画を立案することができます。
このブログ記事では、看護学生が臨地実習や国家試験対策で活用できる具体的な評価方法と、実際の看護現場での応用について詳しく解説します。
活動-運動パターンとは
活動-運動パターンとは、ゴードンが提唱した11の機能的健康パターンの一つであり、日常生活における身体活動と運動機能に関連する要素を評価するものです。
このパターンでは、患者さんの活動能力、運動機能、日常生活動作(ADL)の自立度などを包括的に評価します。
1. 基本情報の収集手順と実践テクニック
バイタルサインの測定と解釈
【測定の基本と注意点】
- 脈拍とリズム:安静時と運動後の変化を比較することで、循環器系の予備能力を評価できます。特に高齢者や循環器疾患のある患者では、脈拍の質(強さ、リズム、緊張)にも注目しましょう。
- 正常値:60~100回/分
- 評価ポイント:不整脈の有無、頻脈(100回/分以上)、徐脈(60回/分未満)
- 呼吸数と深さ:呼吸数だけでなく、呼吸の深さ、リズム、呼吸音、呼吸パターンも評価します。
- 正常値:12~20回/分
- 評価ポイント:頻呼吸、徐呼吸、努力呼吸、陥没呼吸、シーソー呼吸、チェーンストークス呼吸などの異常呼吸パターン
- 血圧測定:安静時と体位変換後、また活動前後での変化にも注目します。
- 正常値:収縮期血圧 100~139mmHg、拡張期血圧 60~89mmHg
- 評価ポイント:起立性低血圧(20mmHg以上の低下)の有無、活動による変動
【検査データの解釈と看護評価への活用】
- 肺機能検査:%VC(肺活量)、FEV1.0%(1秒率)などを確認し、呼吸機能の制限を評価します。
- 拘束性換気障害:%VCの低下(80%未満)
- 閉塞性換気障害:FEV1.0%の低下(70%未満)
- 血液ガス分析:酸素化と換気の状態を評価します。
- 主要評価項目:PaO2(80-100mmHg)、PaCO2(35-45mmHg)、pH(7.35-7.45)、HCO3-(22-26mEq/L)
- 評価ポイント:低酸素血症(PaO2<80mmHg)、高二酸化炭素血症(PaCO2>45mmHg)などの呼吸不全兆候
- 経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2):在宅や病棟での継続的モニタリングに有用です。
- 正常値:95-100%
- 評価ポイント:安静時と活動時のSpO2変化、低下傾向の有無
基本的運動能力のアセスメント実践法
【症状評価のポイント】
- 動悸の評価:「どのような活動で起こるか」「どの程度の強さか」「どのくらい続くか」を具体的に聴取します。
- ボルグスケールを用いた自覚的運動強度の評価も有効です(6~20段階)
- 呼吸困難の評価:mMRC(修正MRC)息切れスケールなどを用いて客観的に評価します。
- Grade 0:激しい運動時のみ息切れがある
- Grade 1:平坦な道を急いで歩く、または緩やかな坂道を歩く時に息切れがある
- Grade 2:息切れのために同年代の人より歩くのが遅くなる、または平坦な道を自分のペースで歩いているときにも息継ぎのために立ち止まることがある
- Grade 3:平坦な道を約100m、または数分歩くと息継ぎのために立ち止まる
- Grade 4:家から出られないほど、または衣服の着脱時にも息切れがある
- しびれ・ふらつきの評価:部位、程度、持続時間、誘発因子を詳細に記録します。
- 神経学的評価:感覚検査(触覚、痛覚、振動覚、位置覚)を行い、末梢神経障害やしびれの客観的評価を行います
- 既往歴の影響分析:心疾患、肺疾患、脳疾患の既往が現在の活動能力にどのように影響しているかを分析します。
- 例:慢性閉塞性肺疾患(COPD)患者では、呼吸困難を最小限にする動作や姿勢の工夫を評価
歩行・姿勢・筋の評価方法
【観察と評価の実際】
- 歩行姿勢の評価:10m歩行テストや「Timed Up and Go Test(TUG)」を実施し、客観的に評価します。
- TUGテスト:椅子から立ち上がり、3m歩行して戻り座るまでの時間を測定(正常値:10秒以下)
- 筋緊張の評価:Modified Ashworth Scale(MAS)を用いて筋緊張を評価します。
- 0:筋緊張の増加なし
- 1:わずかな筋緊張の増加、関節可動域の末端で引っかかりを感じる
- 2:顕著な筋緊張の増加、関節可動域全体にわたって動きは容易
- 3:著明な筋緊張の増加、他動運動困難
- 4:関節が固定状態
- 身体部分の欠損と適応状況:欠損部位の状態(断端の状態、皮膚の状態など)と心理的受容状態を評価します。
- 断端の観察ポイント:発赤、腫脹、痛み、知覚異常など
- 装具・補助具の使用評価:装具の適合性、使用状況、自己管理能力を評価します。
- チェックポイント:装着方法の理解度、装着による皮膚トラブルの有無、メンテナンス状況
関節可動域と日常生活活動能力の詳細評価
【専門的評価方法】
- 関節可動域測定(ROM):ゴニオメーターを用いて測定します。主要関節の正常値を把握しておきましょう。
- 例:肩関節外転(0-180°)、膝関節屈曲(0-150°)など
- 実習ポイント:左右差の有無、疼痛の有無、可動域制限の原因(関節拘縮、筋力低下、疼痛など)を分析
- 徒手筋力テスト(MMT):筋力を0~5段階で評価します。
- MMT 5:正常(100%)- 重力と最大抵抗に抗して関節を動かせる
- MMT 4:良好(75%)- 重力と中等度の抵抗に抗して関節を動かせる
- MMT 3:普通(50%)- 重力に抗して関節を動かせる
- MMT 2:不良(25%)- 重力を取り除いた状態で関節を動かせる
- MMT 1:微弱(10%)- 筋収縮を触知できるが、関節運動はない
- MMT 0:零(0%)- 筋収縮を触知できない
- ADL評価スケールの活用:Barthel IndexやFIMなどを使用して客観的に評価します。
- Barthel Index:100点満点で評価(0-20:全介助、21-60:重度介助、61-90:中等度介助、91-99:軽度介助、100:自立)
- 評価項目:食事、移乗、整容、トイレ動作、入浴、歩行、階段昇降、更衣、排便コントロール、排尿コントロール
【実践的評価のコツ】
- 患者の自己評価と看護師の客観的評価を比較することで、認識のずれを把握できます
- ADL評価は一度きりでなく、経時的に変化を追うことが重要です
- 「できること」と「していること」は異なる場合があるため、両方の視点から評価しましょう
余暇活動の評価と看護への応用
- 運動パターンの詳細評価:
- 種類:有酸素運動(ウォーキング、水泳など)と筋力トレーニングのバランス
- 頻度:週何回、1回あたりの時間
- 強度:主観的運動強度、心拍数の変化
- 趣向:楽しんで行っているか、継続意欲はあるか
- 余暇活動の包括的評価:
- 個人にとっての意味:生きがい、ストレス発散、社会的交流の場となっているか
- 活動制限による心理的影響:特に入院による制限で精神的ストレスはないか
- 社会的側面:一緒に活動する人がいるか、孤立していないか
2. 家族の情報収集と評価の実際
家族の活動状況の詳細評価
- 家族の生活パターン分析:
- 家族それぞれの活動時間帯と役割分担
- 患者のケアに関わる時間的余裕
- 家族の通勤・通学状況と距離・時間
- 在宅ケアを想定した場合の家族の生活パターンへの影響
- 家族の余暇活動とその意義:
- 家族共同の余暇活動の有無と内容
- 患者の病状による家族の余暇活動への影響
- 余暇活動を通した家族のストレス発散状況
- 家族の拘束状況の評価:
- 介護による時間的拘束の程度
- 介護疲れのサイン(疲労感、イライラ、不眠など)
- レスパイトケアの必要性
- 家族の協力度とサポート体制:
- 主介護者と副介護者の関係性
- 家族内でのコミュニケーション状況
- 家族の健康問題(高齢の配偶者など)
- 社会資源の活用状況(ホームヘルパー、デイサービスなど)
家族アセスメントの実践的活用
- 家族システム理論を用いた分析:
- 家族内の役割変化(患者の病気による役割の変化と家族の適応状況)
- 家族の境界(過度に密着または疎遠な関係性の有無)
- 家族の発達段階に応じた課題達成状況
- 家族の強みと課題の明確化:
- 強み:協力的な家族関係、経済的安定、柔軟性など
- 課題:介護知識不足、家族間の対立、経済的問題など
3. 日常生活活動の総合評価と看護計画立案
患者の日常生活活動と基本的運動能力の統合的評価
- 呼吸器・循環器機能障害の分析と予測:
- 活動耐性の評価:6分間歩行テストなどを活用
- エネルギー消費の観点からの活動分析:METs(代謝当量)を用いた活動強度の評価
- 労作時の呼吸数・脈拍・血圧・SpO2変化のパターン分析
- 予測される問題:活動耐性低下、息切れ、酸素化不良など
- 体力・筋力低下の発達段階別評価:
- 小児:年齢に応じた運動発達マイルストーンと比較
- 成人:職業や生活スタイルに応じた活動量と比較
- 高齢者:サルコペニア・フレイルの評価(握力測定、歩行速度など)
日常生活活動の自己評価と客観的評価の統合
- ADL評価の詳細分析:
- 食事動作:自助具の必要性、食事にかかる時間、姿勢保持能力
- 整容:洗顔、歯磨き、髭剃り、化粧など細かい動作の自立度
- 入浴:浴槽の出入り、洗体、洗髪の自立度、転倒リスク
- 移動:歩行距離、速度、安定性、補助具の使用状況
- 排泄:トイレへの移動、衣服の着脱、排泄後の清潔保持
- 調理:包丁使用、火の管理、立位持続時間
- ベッド上動作:寝返り、起き上がり、座位保持
- 家事:掃除、洗濯、買い物などの遂行能力
- 更衣:上衣と下衣の着脱、ボタン・ファスナーの操作
- 買い物:店舗までの移動、品物選択、支払い、持ち帰り
- 自己評価と他者評価の乖離分析:
- 過大評価の場合:自己の能力認識と実際の能力のギャップが転倒などのリスク要因に
- 過小評価の場合:不必要な活動制限による廃用症候群のリスク
活動変化と原因の多角的分析
- 活動低下の原因分析フレームワーク:
- 身体的要因:
- 疼痛、呼吸困難、倦怠感などの症状
- 筋力低下、関節可動域制限
- 栄養状態不良、貧血
- 心理的要因:
- 不安、抑うつ
- 意欲低下、自己効力感の低下
- ボディイメージの変化による活動回避
- 社会的要因:
- 経済的問題
- サポート不足
- 居住環境の問題(バリア多い環境)
- 疾患特異的要因:
- 脳卒中:麻痺、感覚障害、高次脳機能障害
- 心疾患:心不全、狭心症による活動制限
- 呼吸器疾患:呼吸困難、低酸素血症
- 身体的要因:
- 余暇活動変化の分析と対応:
- 変化の理由:身体機能低下、環境変化、意欲低下、時間制約
- 代替活動の模索:現在の能力で楽しめる活動の提案
- 活動再開へのステップアップ計画
4. 看護診断と計画立案の実際
活動-運動パターンに関連する主な看護診断
- 活動耐性低下:
- 定義:個人が日常的または新しい活動を完了するための生理学的・心理学的エネルギーの不足
- 関連因子:安静状態、全身衰弱、循環器・呼吸器機能不全
- 目標設定例:患者は段階的に活動量を増加させ、疲労感なく15分間の連続歩行ができる
- 身体可動性障害:
- 定義:目的のある身体運動を自力で行う能力の制限
- 関連因子:筋力低下、関節可動域制限、痛み、認知機能低下
- 目標設定例:患者は補助具を用いて安全に移動できる
- セルフケア不足:
- 定義:日常生活活動を自分で行う能力の低下
- 関連因子:運動・認知機能障害、意欲低下、疼痛
- 目標設定例:患者は補助具を用いて自分で食事摂取ができる
- 廃用症候群リスク状態:
- 定義:身体不動による機能障害のリスク
- 関連因子:長期臥床、意識レベル低下、痛み
- 目標設定例:患者に褥瘡や関節拘縮などの廃用症候群の兆候がみられない
看護計画立案のポイント:事例を用いた解説
【事例】 70歳男性、右片麻痺(Brunnstrom Stage III)の脳梗塞患者。入院前は独居で自立していたが、現在はADLに介助を要する。
看護診断:身体可動性障害
- アセスメント根拠:
- 右上下肢のMMT2~3
- 歩行はT字杖と介助が必要
- 関節可動域制限(右肩関節外転90°、右膝関節屈曲100°)
- 軽度の感覚障害あり
- 目標設定:
- 短期目標:2週間以内に見守りでT字杖歩行ができる
- 長期目標:1ヶ月以内に自宅内でT字杖歩行が自立する
- 具体的看護介入計画:
- リハビリテーション看護:
- 朝のケア時にベッド上での関節可動域訓練を実施
- 食事は車椅子で食堂まで自走してもらい、座位保持時間を延長
- 午前と午後に10分間の歩行訓練を実施(段階的に時間延長)
- 病棟内の平行棒を利用した立位・バランス訓練
- 日常生活の中でのリハビリテーション:
- トイレ動作を通した移乗訓練
- 更衣動作を通した上肢機能訓練
- 整容動作を通した細かい動作の訓練
- 環境調整:
- 非麻痺側にナースコールを設置
- ベッド周囲の環境整備で移動スペースを確保
- 転倒予防のための適切な履物の選定
- 患者教育:
- 麻痺側の保護方法と異常の早期発見
- 段階的な活動増加の重要性
- 自宅環境に合わせた動作訓練
- リハビリテーション看護:
- 評価指標:
- Barthel Indexスコアの変化
- 介助量の変化
- 歩行距離・時間の延長
- 疲労度・疼痛の評価
5. 実習での活用ポイントと事例検討
実習における情報収集のコツ
- 効率的な情報収集方法:
- カルテからの情報:バイタルサイン変動、検査結果、リハビリ記録、ADL評価
- 直接観察:朝の整容、食事、移動場面などでの実際の動作
- 患者インタビュー:症状の自覚、活動に対する思い、入院前の生活状況
- 他職種からの情報:理学療法士・作業療法士からの専門的評価
- 観察のポイント:
- 患者の表情(努力様顔貌、疼痛表情)
- 呼吸パターン(活動前後の変化)
- 皮膚色・発汗状態
- 動作の質(スムーズさ、対称性、安定性)
レポート作成のヒント
- 論理的なアセスメントの書き方:
- 現状の客観的データを記述
- 正常との比較・分析
- 原因の考察
- 今後予測される問題
- 必要な看護介入
- 記録の実例:
【S】「階段を上ると息が切れて、3階まで上がるのに休み休みでないとだめなんです」【O】安静時SpO2 96%、10m歩行後SpO2 92%、呼吸数20→28回/分に増加 努力様呼吸(+)、呼吸音:右下肺野で減弱 肺機能検査:FEV1.0% 65%(閉塞性換気障害)【A】COPDによる呼吸機能低下があり、労作時の換気量増加に対応できず 活動時の呼吸困難が生じている。日常生活での活動制限につながり さらなる体力低下を招くリスクがある。【P】①効率的な呼吸法の指導(口すぼめ呼吸、横隔膜呼吸) ②段階的な活動量増加プログラムの立案 ③ADL動作時のエネルギー温存法の指導
まとめ
活動-運動パターンの評価は、単に「できる・できない」を判断するだけではなく、その背景にある生理学的メカニズム、心理的要因、社会的要因を包括的に考慮することが重要です。
特に看護学生の皆さんは、バイタルサインや症状の変化と活動の関連性、個々の患者さんの生活背景や価値観に注目し、個別性のある看護計画を立案できるよう心がけましょう。
この記事で学んだ評価ポイントを臨地実習で実践し、経験を積み重ねることで、より質の高い看護過程の展開ができるようになります。
患者さんの活動-運動パターンを適切に評価し、その人らしい日常生活の回復や維持をサポートできる看護師を目指しましょう。








