低出生体重児の誕生は、医療技術の進歩により救命率が向上している一方で、家族、特に母親にとって大きな心理的負担をもたらします。
今回は、極低出生体重児を持つ母親の心理的危機について、具体的な事例を通じて看護の視点から詳しく解説していきます。
低出生体重児とは何か
低出生体重児とは出生時体重が2500g未満の新生児を指します。
さらに細かく分類すると、1500g未満を極低出生体重児、1000g未満を超極低出生体重児と呼びます。
これらの新生児は、呼吸器系の未熟性、体温調節機能の不全、感染症への抵抗力の低下など、多くの医学的課題を抱えています。
近年の周産期医療の発達により、これらの児の救命率は著しく向上していますが、それに伴い家族の心理的負担も複雑化しています。
事例から見る母親の心理的危機
今回の事例では、出生時体重1700gの極低出生体重児A児とその母親について検討します。
母親は28歳のキャリアウーマンで、勤務中の破水により緊急入院となりました。
A児はNICUに入室し、人工呼吸管理や中心静脈栄養などの集中治療を受けています。
母親は母乳注入の説明を受けた際に過呼吸を起こし、明らかな心理的危機状態に陥りました。
さらに、夫が遠洋漁業で半年間不在という状況が、母親の孤独感と不安を増大させています。
アギュララとメズイックのモデルによる分析
心理的危機への対応において、アギュララとメズイックのバランス保持要因モデルは非常に有効です。
このモデルでは、危機的状況において個人のバランスを保つために、出来事の知覚、社会的支持、コーピング機制の3つの要因が重要とされています。
出来事の知覚について
母親がA児の状態や治療の必要性を現実的に理解することが重要です。
看護師は、酸素濃度の改善や腸蠕動の良好な状態など、ポジティブな情報を適切に伝えることで、母親の認知的理解を促進します。
しかし、情報提供のタイミングや方法が適切でない場合、過呼吸のような身体症状として現れることがあります。
社会的支持の確保
夫の長期不在という状況下で、母親の社会的支持体制の構築が急務となります。
実家の家族や友人、地域のサポートネットワークの活用が考えられます。
また、同じような経験を持つ母親同士の交流や、母子健康包括支援センターでのカウンセリングサービスなども有効です。
コーピング機制の強化
母親が自身の感情や状況に対処するためのコーピング能力を向上させることが必要です。
リラクゼーション技法の習得や、感情表出の場の提供、育児スキルの段階的な獲得などが含まれます。
NICU看護師の役割と対応
NICUで働く看護師には、新生児のケアと同時に家族の心理的支援という重要な役割があります。
情報提供の工夫
医療情報を伝える際は、母親の理解度や心理状態を十分に評価した上で行います。
専門用語を避け、分かりやすい言葉で説明することが重要です。
また、一度に多くの情報を提供せず、母親のペースに合わせた段階的な情報提供を心がけます。
感情的サポートの提供
母親の不安や恐怖、罪悪感などの感情を受け入れ、共感的な態度で接することが大切です。
傾聴の姿勢を保ち、母親の感情表出を促進します。
時には沈黙を共有することも、重要な支援の一つとなります。
家族システムへの働きかけ
夫の不在という状況を踏まえ、利用可能な社会資源の情報提供を行います。
母子保健法に基づく各種サービスや、出生届などの手続きについても適切な情報提供が必要です。
継続的な支援体制の構築
NICUでの急性期を過ぎた後も、継続的な支援が重要となります。
訪問看護部門との連携
退院後の在宅ケアにおいて、訪問看護師による継続的な支援が効果的です。
新生児の成長発達の確認と同時に、母親の心理状態の評価も継続します。
必要に応じて、専門的なカウンセリングサービスへの紹介も行います。
地域保健との協働
保健師や助産師による地域での支援体制も重要な要素です。
乳幼児健診や育児相談を通じて、継続的な支援を提供します。
また、育児サークルなどのピアサポートグループへの参加も推奨されます。
予防的アプローチの重要性
心理的危機への対応は、発生してからの対処だけでなく、予防的な視点も重要です。
出生前からの準備
妊娠中からの情報提供により、起こりうる状況への心理的準備を促進します。
ハイリスク妊娠の場合は、特に丁寧な説明と心理的サポートが必要です。
早期の関係性構築
母子の愛着形成を促進するため、可能な限り早期からの接触機会を提供します。
タッチングやカンガルーケアなどの実施により、母親の自信と愛着を育みます。
まとめ
低出生体重児を持つ母親の心理的危機は、複合的な要因によって生じる複雑な問題です。
アギュララとメズイックのモデルに基づいた包括的なアプローチにより、効果的な支援が可能となります。
看護師には、専門的な知識と技術に加えて、高度なコミュニケーション能力と共感的態度が求められます。
また、多職種との連携や継続的な支援体制の構築により、母親と新生児の両方の最良のアウトカムを目指すことが重要です。
今後も、個々の家族の特性やニーズに応じた、きめ細やかな支援の提供が期待されます。
カンサポでは、このような複雑な看護事例の分析や理解を深めるための学習支援を提供しています。
中範囲理論の適用や小児看護過程の展開など、専門的な知識が要求される課題についても、経験豊富な専門家がサポートいたします。
看護学生の皆様の学習目標達成と、将来の臨床実践力向上に向けて、質の高いサービスを提供し続けています。








