心不全患者の看護過程作成に悩んでいる看護学生の皆さん、こんにちは。
ヘンダーソンの14の基本的欲求を使った心不全の看護過程は、呼吸状態の管理、活動耐性の評価、水分出納バランス、セルフケア能力など、多面的なアセスメントが求められるため、多くの学生が難しく感じるテーマです。
本記事では、慢性心不全の急性増悪で入院した40代男性の架空事例を用いて、ヘンダーソンの各欲求別にアセスメントのポイントと看護問題の導き方を具体的に解説します。
この記事を読むことで、心不全患者の全体像把握から看護計画立案までの流れが理解でき、実習記録作成の参考になるはずです。
事例紹介|慢性心不全の急性増悪で入院した40代男性
患者プロフィール
L氏、51歳男性、会社員(プロジェクトリーダー)
診断名:慢性心不全
既往歴:43歳時に前壁心筋梗塞でPCI実施、47歳時に急性心不全と心筋梗塞でPCI実施
家族構成:妻(48歳)と二人暮らし、子供2人は独立
発症の経緯
退院後は定期的に外来通院し、薬物療法を継続していました。
10月中旬から労作時の呼吸困難を自覚していましたが、仕事が忙しく様子を見ていました。
10月下旬には呼吸困難、全身倦怠感、下肢浮腫が出現しましたが、定期受診日まで我慢していました。
11月初旬の定期受診で慢性心不全の急性増悪と診断され、緊急入院となりました。
入院時データ(11月1日)
意識レベル:清明
体重80kg(普段75kg、5kg増加)
バイタルサイン:体温36.8℃、血圧128/76mmHg、脈拍102回/分、呼吸数28回/分
SpO2 90%(経鼻酸素5L/分)
臨床症状
全身倦怠感、喘鳴、起座呼吸、湿性咳嗽
両下肢浮腫、末梢冷感
検査データ
BNP 420pg/mL(心不全マーカー高値)
胸部X線:両肺うっ血、心胸郭比68%、胸水貯留
心エコー:心室拡大、左室駆出率44%(正常55〜80%)
心電図:心拍数120回/分、正常洞調律
現在の状態(11月5日、入院5日目)
体重75kg(5kg減少)
バイタルサイン(安静時):体温36.7℃、血圧110/74mmHg、脈拍74回/分、呼吸数20回/分、SpO2 98%
排便直後:血圧130/80mmHg、脈拍94回/分、呼吸数30回/分、SpO2 92%
排便30分後:血圧120/75mmHg、脈拍78回/分、呼吸数20回/分、SpO2 98%
臨床症状:全身倦怠感、喘鳴、起座呼吸、湿性咳嗽、下肢浮腫なし
治療内容
薬物療法:利尿剤(フロセミド)、ARB(ロサルタンカリウム)、β遮断薬(ビソプロロール)
食事療法:心臓高血圧食1600kcal、塩分6g/日、水分制限600mL/日
心臓リハビリテーション:段階的に活動範囲拡大中
ヘンダーソン14の基本的欲求別アセスメントのポイント
1. 正常に呼吸する
主観的データ(S情報)
トイレまで歩いた時は大丈夫でしたが、いきんでから息苦しさが強くなりました
客観的データ(O情報)
喫煙歴:20歳から20本/日、14年前に禁煙
入院前から息切れに注意して生活
10月中旬:労作時呼吸困難出現
10月下旬:呼吸困難、全身倦怠感
入院時:呼吸数28回/分、SpO2 90%(酸素5L/分)
胸部X線:両肺うっ血、心胸郭比68%、胸水貯留
心エコー:左室駆出率44%
現在(11月5日)安静時:呼吸数20回/分、SpO2 98%
排便直後:呼吸数30回/分、SpO2 92%
アセスメントの要点
入院時は心不全によるポンプ機能低下により、肺うっ血が生じ、ガス交換が障害されていました。
14年前に禁煙しており、呼吸器への配慮ができています。
酸素療法と利尿剤により肺うっ血は改善し、安静時の呼吸状態は正常範囲内に回復しています。
しかし、排便時のいきみにより、呼吸数30回/分、SpO2 92%まで低下しています。
これは、腹圧がかかることで静脈還流が増加し、心臓への負荷が増大し、一時的な心不全悪化を引き起こすためです。
ニードの充足状況
ガス交換は正常に行われていますが、排便時の安楽な呼吸が妨げられており、ニードは未充足です。
看護問題:安楽な呼吸の阻害
2. 適切に飲食する
主観的データ(S情報)
コーヒーが飲めないので、コーヒー味の飴を舐めました
妻の食事と同じで味は薄いけど、慣れているので美味しいです
客観的データ(O情報)
入院前:妻が調理、平日は外食多い、食後はコーヒー、濃い味好み
入院時:体重80kg(5kg増加)
入院後:心臓高血圧食1600kcal、塩分6g/日、水分制限600mL/日
食事摂取量:毎食全量摂取
現在:体重75kg(適正体重に回復)
TP 6.6g/dL、Alb 4.0g/dL(正常範囲)
砂糖入りの飴を食後に摂取
アセスメントの要点
入院時の5kg体重増加は、心不全による体内水分貯留が原因です。
利尿剤と水分制限により、適正体重まで改善しています。
栄養状態は良好で、毎食全量摂取できています。
制限のある食事に工夫して適応しており、食事への満足感が得られています。
ニードの充足状況
必要な栄養が摂取でき、食事への満足感も得られており、ニードは充足しています。
3. あらゆる排泄経路から排泄する
主観的データ(S情報)
自分でトイレに行けたので、すっきりしました
客観的データ(O情報)
入院前:排尿7回/日、排便1回/日
BUN 14mg/dL、Cr 0.8mg/dL(腎機能正常)
尿量:入院後〜11/4は2200mL/日、11/4〜11/5は1600mL/日
入院翌日から毎日排便あり
膀胱留置カテーテル:11/1挿入、11/4午後抜去
アセスメントの要点
腎機能は正常で、利尿剤により適切な尿量が確保されています。
排便も規則的にあり、生理的で正常な排泄が行われています。
膀胱留置カテーテル抜去後も排尿困難なく、自立した排泄が可能となり、満足感が得られています。
ニードの充足状況
生理的で正常な排泄ができ、排泄後の快感も得られており、ニードは充足しています。
4. 身体の位置を動かし、またよい姿勢を保持する
主観的データ(S情報)
ほとんど歩いていないので、靴を履いて気をつけて歩いてます
客観的データ(O情報)
入院前:休日は体調に合わせて散歩、仕事では体調に合わせてタクシー利用
心臓リハビリテーション:段階的に活動範囲拡大
11/2:端坐位、11/3:室内歩行、11/4:トイレ歩行、11/5:棟内自由(80mまで)
歩行は安定
アセスメントの要点
入院前から体調に合わせた活動を心がけていました。
心臓リハビリテーションにより、段階的に活動範囲が拡大しています。
自身の状態を理解し、安全に配慮した行動がとれています。
ニードの充足状況
心機能に応じた適切な活動ができ、安全な姿勢の取り方を理解しており、ニードは充足しています。
5. 睡眠と休息をとる
主観的データ(S情報)
息苦しさがなくなって良く眠れます
客観的データ(O情報)
入院前:睡眠時間6時間、よく眠れていた
入院時:呼吸困難により睡眠障害
現在:22時〜6時、中途覚醒なし
アセスメントの要点
入院時は心不全症状により睡眠が妨げられていました。
治療により呼吸状態が改善し、十分な睡眠時間が確保でき、中途覚醒もありません。
身体的ストレスが軽減し、リラックスした状態で睡眠がとれています。
ニードの充足状況
自然な睡眠がとれ、ストレスからの解放感も得られており、ニードは充足しています。
6. 適切な衣類を選び、着脱する
主観的データ(S情報)
尿の管がとれて浴衣からパジャマに着替えられたので動きやすいです
浴衣は着崩れてたのでパジャマになって良かったです
客観的データ(O情報)
入院前:シンプルな服装好み、仕事ではスーツ
入院時:医療処置のため病衣(浴衣)
現在:パジャマ着用可能
アセスメントの要点
心不全症状の改善により、医療処置が減少し、動きやすい衣服の着用が可能となりました。
自分で身づくろいができるようになっています。
ニードの充足状況
現在の状態に適した衣服を着用でき、自分で身づくろいができており、ニードは充足しています。
7. 体温を生理的範囲内に維持する
主観的データ(S情報)
肌寒い時には上着を着て調整しています
客観的データ(O情報)
入院前:平熱36.5℃、エアコンで温度調整
入院時:体温36.8℃
現在:体温36.7℃
病室温度:22℃
WBC 4000/μL(正常範囲)
アセスメントの要点
体温は生理的範囲内で安定しています。
感染徴候もありません。
環境温に応じて適切な体温調節行動がとれています。
ニードの充足状況
体温は生理的範囲内で、適切な体温調節ができており、ニードは充足しています。
8. 身体を清潔に保ち、身だしなみを整え、皮膚を保護する
主観的データ(S情報)
髪を洗って体を拭いてもらいました、入浴したように気持ち良いです
客観的データ(O情報)
入院前:1日1回入浴、身だしなみに気を付けている
入院後:ベッド上で歯磨き・髭剃りを毎日実施
皮膚・粘膜の汚染なし
アセスメントの要点
入院前からの清潔に対する意識が高く保たれています。
症状改善により、自身での清潔行為が可能となっています。
皮膚粘膜の清潔が保たれ、清潔保持の習慣を継続できています。
ニードの充足状況
皮膚粘膜が清潔で、清潔の基準が保たれ、身だしなみが整っており、ニードは充足しています。
9. 環境のさまざまな危険因子を避け、また他人を傷害しないようにする
主観的データ(S情報)
特になし
客観的データ(O情報)
入院前:自宅でこまめに換気、感染予防に注意
個室で定期的に換気
面会者はマスク着用・手洗い
本人も病室から出る際はマスク着用・手洗い
アセスメントの要点
入院前から環境調整と感染予防への意識が高く保たれています。
症状改善により、自身で環境を調整できるようになっています。
他者への配慮ある行動が継続できています。
ニードの充足状況
快適な環境を調整でき、周囲の安全が保たれ、感染予防行動がとれており、ニードは充足しています。
10. 他者とコミュニケーションをもつ
主観的データ(S情報)
リハビリを頑張って早く退院をしたいです
先生、看護師さんに仕事のことまで心配してもらって感謝しています
客観的データ(O情報)
入院前:自分の意見を正しく伝えられる、妻が最も良き理解者
入院時:心不全症状あり
現在:症状改善
アセスメントの要点
症状改善により、自身の目標や希望を明確に表現できています。
医療者との良好な関係性が構築できています。
周囲からの支援を受け入れ、信頼関係を築くことができています。
ニードの充足状況
自分の意思や希望を表現でき、周囲との良好なコミュニケーションが図れており、ニードは充足しています。
11. 自分の信仰に従って礼拝する
主観的データ(S情報)
退院したら久しぶりにお墓参りに行こうと思います
客観的データ(O情報)
特定の信仰なし
入院前:墓参りに時々行く習慣
心臓リハビリテーションにより活動範囲拡大
アセスメントの要点
医療従事者から適切な援助を受けることができています。
自身の価値観に基づいた生活を継続する意欲が保たれています。
ニードの充足状況
等しく医療サービスを受けられ、自身の信念に基づいた生活を計画でき、ニードは充足しています。
12. 達成感をもたらすような仕事をする
主観的データ(S情報)
プロジェクトが気になるので早く仕事に戻りたいです
会社はゆっくり休めと言いますが、部下は早く戻ってほしそうです
客観的データ(O情報)
職業:会社員、プロジェクトリーダー
入院前:仕事が楽しい
入院時:全身倦怠感などで活動制限
現在:症状改善、リハビリにより棟内80m歩行可能
アセスメントの要点
身体機能の回復とともに仕事への意欲が維持できています。
職場での自身の役割の重要性を認識し、必要とされていることを実感できています。
ニードの充足状況
身体機能回復により仕事への意欲が保たれ、社会的役割への責任感があり、ニードは充足しています。
13. 遊び、あるいはさまざまな種類のレクリエーションに参加する
主観的データ(S情報)
コーチになってから、色々勉強することもあって楽しんでます
客観的データ(O情報)
趣味:フットサル
入院前:病気をしてからはコーチをしている
入院中:スマートフォンでフットサルの動画視聴
アセスメントの要点
身体状態に合わせて趣味の形態を適切に変更できる適応力があります。
入院中でも状況に応じた気分転換の機会を得られています。
前向きな気持ちを持ち、生き生きとした様子が見られます。
ニードの充足状況
状況に応じた気分転換の機会があり、前向きな気持ちで生き生きしており、ニードは充足しています。
14. 正常な発達および健康を導くような学習をし、発見をし、あるいは好奇心を満足させる
主観的データ(S情報)
前2回の入院で指導をされたことは覚えてますし理解しています
仕事に出るとわかっているのに指導通りにできないことがあります
客観的データ(O情報)
43歳と47歳時に心筋梗塞と心不全でPCI
退院後は定期通院、薬物療法継続
10月中旬:労作時呼吸困難出現
10月下旬:呼吸困難、全身倦怠感、下肢浮腫出現
11月初旬:定期受診で慢性心不全急性増悪と診断、入院
アセスメントの要点
2度の入院経験があり、療養法の知識はあります。
しかし、症状出現時の適切な対処行動がとれていませんでした。
定期受診日まで我慢し、その結果、心不全が増悪して入院となっています。
療養法は理解できているものの、日常生活、特に仕事場面での実践が困難な状況です。
知識はあるが実践が困難な状態が続いており、これが今回の入院要因となっています。
ニードの充足状況
療養法の履行困難によりニードは未充足です。
看護問題:療養法の履行困難
看護問題の優先順位と看護計画の立案
ヘンダーソンの14の基本的欲求でアセスメントを行った結果、以下の看護問題が抽出されます。
抽出された看護問題
姿勢と知識不足に関連した安楽な呼吸の阻害
誤った知識や判断・理解不足(過去の経験によるなど)に関連した療養法の履行困難
優先順位の決定
マズローの基本的欲求の階層では、生理的欲求である呼吸の問題が優先されます。
しかし、本事例では、過去2回の心筋梗塞と心不全の既往があるにもかかわらず、症状悪化から受診までに時間を要しており、疾患管理に対する理解不足が根本的な原因です。
壮年期であり、プロジェクトリーダーとして社会的役割が大きい時期です。
排便時の呼吸困難を含む全ての症状は、適切な自己管理ができれば改善が期待できます。
全身状態の改善と未充足なニード充足のためには、療養法の履行に関する学習のニード充足を優先する必要があります。
優先順位第1位:誤った知識や判断・理解不足(過去の経験によるなど)に関連した療養法の履行困難
看護目標
長期目標:心負荷を避ける行動を取ることができる
短期目標:排便後に呼吸困難が出現しない(評価日:11月12日)
看護計画(OP・TP・EP)の例
OP:入院前の生活状況と疾患管理の認識、仕事内容と日常生活習慣、心不全の病態と症状悪化に関する理解度、症状出現時の対処行動、排便時の適切な姿勢や呼吸法の知識、活動と休息のバランス、排便前後のバイタルサイン、自覚症状の有無と程度の観察
TP:排便時の付き添いとバイタルサイン確認、排便時の体位の工夫、腹部マッサージの実施、生活習慣の振り返り、不安や思いの傾聴
EP:排便時の効果的な呼吸法の指導(実際の動作と共に腹式呼吸を指導)、心不全症状の観察ポイントの説明、セルフモニタリング方法の指導、心負荷を避ける具体的な生活方法の説明、症状悪化時の対応方法の説明
まとめ|心不全看護過程のポイント
心不全患者の看護過程をヘンダーソンで展開する際は、呼吸状態と循環動態、水分出納バランス、活動耐性、セルフケア能力、疾患管理の理解度を総合的にアセスメントすることが重要です。
本事例のL氏のように、過去に複数回の入院経験がある患者では、知識はあっても実践が困難な状況に焦点を当て、個別性に配慮した具体的な指導が重要な看護の柱となります。
看護学生の皆さんは、このような架空事例を参考にしながら、実際の患者さんの個別性を大切にした看護過程を展開してください。
心不全看護は急性期の全身管理から回復期のリハビリテーション、そして退院後の自己管理支援まで継続的な視点が必要であり、患者さんが疾患と上手に付き合いながら、可能な限り充実した生活を送れるよう支援することが看護の重要な役割となります。








