ゴードンの11パターンの中で、「自己知覚−自己概念パターン」は「何をどこまで書けばいいのかが一番わかりにくい」と感じる学生さんが多いパターンですよね。
ボディイメージ、自尊感情、自己概念……抽象的な言葉が並ぶので、つい曖昧な記述になりがちです。でもポイントは明確で、「自分のことをどう見ているか」「自分の価値をどう感じているか」を、発達段階の視点も含めて評価していくことです。
この記事では、80歳・膵臓がんステージIVで在宅療養中のAさんの事例を使って、このパターンのアセスメントの書き方を具体的に解説していきます。
※ 事例の全体像やゴードン11パターンの概要については、こちらのまとめ記事をご覧ください。
事例のおさらい(簡易版)
Aさん 80歳 女性 膵臓がん(ステージIV)
3年前に診断。余命6週間〜3ヶ月と告知済み。「病院にいたって治るわけじゃないし、お金ばかりかかって申し訳ない」と自ら退院を決断。身長148cm、体重32kg。腹水貯留による腹部膨満感、両下肢の高度な浮腫、全身倦怠感あり。尾骨部に骨突出。歩行不可、電動介護ベッドを使用。甥が紹介してくれた教会の神父との語り合いを精神的な拠り所としている。自宅で最期まで過ごすか迷いがあり、甥や友人に負担をかけたくないという気持ちが強い。経済的なゆとりもなく、再入院費用への不安もある。国民年金(約5万5千円/月)、わずかな預貯金あり。
Aさん:「もうそんなに長くはないだろうから、通帳のお金を引き出して準備しておかないと」
Aさん:「息子も先に逝ってしまったし、父も母ももういない。あちらでみんなに再会できると思えば、怖いという気持ちはないですよ」
甥:「病院に戻ったっていいし、この家にいたいならそれでもいい。おばさんの好きなようにしてくれればそれでいいんだから。お金のことは気にしなくていいよ」
そもそも「自己知覚−自己概念パターン」って何を見るの?
このパターンでは、大きく分けて3つの視点から評価します。
① 自己概念・アイデンティティ(発達段階を含む)
患者さんが自分自身をどのような存在として捉えているか、また発達段階に応じた心理的課題にどう向き合っているかを評価します。高齢の終末期患者さんの場合、エリクソンの発達段階における「自我の統合 vs 絶望」が重要な視点になりますよ。
② ボディイメージ
病気や治療によって身体がどう変化しているか、そしてその変化を患者さん自身がどう受け止めているかを評価します。客観的な身体の変化(痩せ、浮腫など)だけでなく、本人の認識が大切です。
③ 自尊感情・情緒の安定
自分の価値をどう感じているか、精神的に安定しているかを評価します。不安や負担感がある場合は、それが自尊感情にどう影響しているかを分析します。
つまり、「自分をどう見ているか(自己概念)」+「自分の体をどう感じているか(ボディイメージ)」+「自分の価値をどう感じているか(自尊感情)」の3層構造で評価するパターンですね。
ステップ① 事例から情報を抜き出す
S情報(Aさんの言葉)
❶「病院にいたって治るわけじゃないし、お金ばかりかかって申し訳ない」
❷「もうそんなに長くはないだろうから、通帳のお金を引き出して準備しておかないと」
❸「息子も先に逝ってしまったし、父も母ももういない。あちらでみんなに再会できると思えば、怖いという気持ちはないですよ」
【甥の言葉】「病院に戻ったっていいし、この家にいたいならそれでもいい。おばさんの好きなようにしてくれればそれでいいんだから。お金のことは気にしなくていいよ」
O情報(客観的な事実・観察情報)
- 80歳、女性、膵臓がんステージIV
- 余命6週間〜3ヶ月と本人に告知されている
- 本人の意思により退院を決断
- 身長148cm、体重32kg、小柄で痩せが著しい
- 尾骨部に骨突出が確認される
- 腹水貯留による腹部膨満感、両下肢の高度な浮腫、全身倦怠感
- 歩行不可能、自力での起立困難、電動介護ベッドを使用
- 腹部の痛みはオピオイドにより自制内
- 甥が紹介してくれた教会の神父との語り合いを精神的な拠り所としている
- 自宅で最期まで過ごすか迷いがある
- 甥や友人に負担をかけたくないという気持ちがある
- 経済的なゆとりがなく、再入院の費用が不安
- 国民年金を受給(約5万5千円/月)、わずかな預貯金あり
- 甥は「好きなようにすればいい、お金のことは気にしなくていい」と述べている
ステップ② アセスメントを書く
自己知覚−自己概念パターンでは、「発達段階と自己概念 → ボディイメージ → 自尊感情・情緒の安定 → 結論」の順に書いていきましょう。
アセスメント例:自己知覚−自己概念パターン
【発達段階と自己概念】
Aさんは80歳であり、エリクソンの発達段階理論においては老年期に該当する。この時期の心理社会的課題は「自我の統合 vs 絶望」であり、自分が歩んできた人生を振り返り、その全体を意味あるものとして受容できるかどうかが問われる段階である。人生を肯定的に受け入れることができれば「自我の統合」が達成されるが、受け入れられない場合には、衰えや死に対する恐怖や後悔が「絶望」として現れるとされている。
Aさんは3年前に膵臓がんステージIVと診断を受け、現在は余命6週間から3ヶ月と告知されている。これに対しAさんは「息子も先に逝ってしまったし、父も母ももういない。あちらでみんなに再会できると思えば、怖いという気持ちはないですよ」と述べている。この発言からは、死を恐怖として受け止めるのではなく、先に亡くなった家族との再会という意味づけを行い、穏やかに死を受容している姿がうかがえる。また、「病院にいたって治るわけじゃないし」という発言からも、自分の病状と限られた時間を現実的に理解したうえで、残りの人生をどう過ごすかについて主体的に考えていることが読み取れる。これらのことから、Aさんはエリクソンのいう自我の統合に向かう過程にあると考えられる。
【ボディイメージ】
Aさんの身体には、膵臓がんの進行に伴う顕著な変化が生じている。体重は32kgまで低下して痩せが著しく、尾骨部には骨突出が見られる。腹水貯留による腹部の膨隆があり、両下肢には高度な浮腫がみられる。さらに、腹痛や倦怠感が持続し、歩行は不可能で、電動介護ベッドでの生活を余儀なくされている。
これらは疾患の進行に伴う身体的な変化と機能的な制限であるが、Aさんからボディイメージに対する不満や嘆きといった直接的な訴えは聴かれていない。このことから、Aさんは自分の身体の現状について、否定的に受け止めるのではなく、病気の進行の一部として受け入れていると考えられる。ただし、終末期の患者さんはボディイメージの変化を言葉にしにくいこともあるため、今後も表情や態度、会話の中の微細なサインに注意を払い、本人の内面を把握していく必要がある。
【自尊感情と情緒の安定】


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Aさんは、膵臓がんによる疼痛、腹部膨満感、倦怠感、食欲消失など、生活の多くが困難な状況に置かれているにもかかわらず、自分自身を卑下するような発言は見られず、自尊感情は維持できていると考えられる。余命が限られていることや経済的に厳しい状況にあることを認識しつつも、自らの意思で退院を決断し、療養の場について主体的に考える姿勢が見られることも、自己の価値を否定していないことの表れである。
また、甥が紹介してくれた教会の神父との語り合いを精神的な拠り所としており、スピリチュアルな支えが自尊感情の維持に寄与していることがうかがえる。甥からは「好きなようにすればいい、お金のことは気にしなくていいよ」という言葉をかけられており、このような周囲からの肯定的な関わりもAさんの自己肯定感を支えている。
一方で、Aさんには精神的な不安定さにつながりうる要因がいくつか存在する。まず、甥や友人に負担をかけたくないという思いが強く、自宅で療養し続けることが周囲への重荷になっているのではないかという気がかりを抱えている。次に、経済面では国民年金(約5万5千円/月)とわずかな預貯金で生活しており、再入院した場合の費用負担に対する不安がある。「もうそんなに長くはないだろうから、通帳のお金を引き出して準備しておかないと」という発言には、死後の整理を自分で行わなければならないという焦りや、経済的な余裕のなさに対する心配が表れている。これらの不安が蓄積すると、情緒の安定が損なわれ、ひいては自尊感情の低下につながる可能性がある。
【結論】
以上のことから、Aさんは余命の告知を受けたうえで死を穏やかに受容しており、エリクソンの発達段階における自我の統合に向かう過程にあると考えられる。ボディイメージの変化についても否定的な訴えはなく、身体の現状を受け入れている様子がみられる。自尊感情についても、困難な状況のなかで自分を卑下することなく、主体的に療養方針を考える姿勢が維持されている。しかし、甥や友人への負担を心配する気持ちが強く、また経済的なゆとりがない中での入院費用への不安など、精神的な安定を脅かす複数の不安要因を抱えている。このことから、自己知覚−自己概念パターンは機能障害的パターンであると判断する。
看護上の問題として、他者への負担感や経済面に対する不安が強く、精神的な安定が十分に保てていないことが挙げられる。今後の対応としては、Aさんの不安や迷いを傾聴する機会を意識的に設けること、甥や友人がAさんの存在を負担ではなく大切に思っていることを実感できるような関わりの促進、経済面については医療ソーシャルワーカーとの連携による利用可能な制度の確認・案内、そして神父との交流を引き続き精神的な支えとして活用していくことが求められる。
アセスメントの書き方のコツ:ここを押さえよう
コツ① エリクソンの発達段階を「当てはめるだけ」にしない
「80歳なので老年期です。課題は自我の統合です。」……これだけでは教科書の丸写しですよね。大事なのは、Aさんがその課題にどう向き合っているかを、具体的な発言や行動から評価することです。
エリクソンの老年期の課題:自我の統合 vs 絶望
・自我の統合 → 人生を受け入れ、死を穏やかに捉えられる
・絶望 → 衰えや死に対する恐怖、後悔が強い
Aさんの場合 → 故人との再会への期待を語り、死を恐怖としてではなく穏やかに受け止めている → 自我の統合に向かう過程にある
このように、発達段階の理論+Aさんの具体的な発言=判断という形で書くと、理論の活用ができていることが伝わりますよ。
コツ② ボディイメージは「訴えがない」ことも書く
身体が大きく変化しているのに、本人からボディイメージに関する不満の訴えがない場合、「訴えがないから問題なし」と短絡的に結論づけないことが大切です。
「訴えがないことから、身体の変化を受け入れていると考えられる。ただし、終末期の患者さんは身体の変化を言語化しにくいこともあるため、継続的な観察が必要」というように、判断と留保をセットで書くのが良いアセスメントです。
コツ③ 自尊感情の「プラス面」と「リスク要因」を両方書く
このパターンでは、自尊感情が維持されている根拠と、それを脅かす要因の両面を書くことがポイントです。
Aさんの自尊感情
【維持されている根拠】
・自分を卑下する発言がない
・主体的に療養方針を判断できている
・神父との交流がスピリチュアルな支えになっている
・甥からの肯定的な言葉がある
【脅かす要因(リスク)】
・周囲への負担感が強い
・経済面の不安
・死後の準備への焦り
プラス面だけ書くと「機能的」で終わってしまい、リスク面だけ書くと「自尊感情が低い」と断定してしまいます。両面を書いたうえで、リスク要因の方が大きいから機能障害的と判断する、という論理の流れが大切ですよ。
コツ④ 家族の言葉も活用する
アセスメントでは患者さん本人の言葉が中心ですが、家族(甥など)の言葉もアセスメントの根拠になります。
甥の「好きなようにすればいい、お金のことは気にしなくていいよ」という発言は、Aさんの自己肯定感を支える外的要因として評価できます。一方で、甥がこう言っているにもかかわらずAさんが不安を感じ続けているという事実は、不安の根が深いことを示す材料にもなりますよね。
よくある間違い・つまずきポイント
❌ エリクソンの理論を書くだけで事例と結びつけない
「老年期の課題は自我の統合である」と教科書的に書いて終わるケースが非常に多いです。Aさんの具体的な発言や行動と結びつけて初めてアセスメントになります。
❌ ボディイメージを丸ごとスキップする
「身体のことは栄養パターンで書いたから」と省略してしまう学生さんがいますが、栄養パターンで書くのは「栄養状態としての身体の評価」であり、このパターンで書くのは「身体の変化を本人がどう受け止めているか」です。視点が違いますよ。
❌ 「不安がある」→即「機能障害」と飛躍する
不安があることが即座に機能障害を意味するわけではありません。自尊感情が維持されている部分を評価したうえで、不安要因が精神的な安定にどう影響しているかを分析するプロセスを経て、結論を導きましょう。
❌ 経済面の不安をスルーする
「お金のことは看護に関係ないのでは?」と思うかもしれませんが、経済的な不安は自尊感情や情緒の安定に大きく影響します。Aさんの場合、経済面の不安が療養の場の選択にも影響しているため、必ずアセスメントに含めましょう。
まとめ
自己知覚−自己概念パターンでは、以下の3つの視点が軸になります。
- 自己概念・発達段階:エリクソンの老年期の課題に照らして、死の受容と自我の統合をどう評価するか
- ボディイメージ:身体の変化を本人がどう受け止めているか
- 自尊感情・情緒の安定:自分の価値をどう感じているか、精神的な安定を脅かす要因はあるか
Aさんの場合、死を穏やかに受容し、ボディイメージの変化も受け入れ、自尊感情も維持されているプラス面がある一方で、他者への負担感と経済面の不安が精神的な安定を脅かしていることから、機能障害的パターンと判断しました。
次の記事では、パターン8:役割−関係パターンを解説します。Aさんの独居の背景、友人・甥・民生委員との関係性、サポート体制をどう評価するか、見ていきましょう。
ゴードン11パターン|記事一覧
| No. | パターン |
| 1 | 健康知覚−健康管理 |
| 2 | 栄養−代謝 |
| 3 | 排泄 |
| 4 | 活動−運動 |
| 5 | 睡眠−休息 |
| 6 | 認知−知覚 |
| 7 | 自己知覚−自己概念(この記事) |
| 8 | 役割−関係 |
| 9 | セクシュアリティ−生殖 |
| 10 | コーピング−ストレス耐性 |
| 11 | 価値−信念 |








